あなたへ
もう!困るよ!お母さん!
私は、いつから、あの子のこんな言葉が聞けるようになったのだろう。
これは、
食事が美味しかった時に、あの子の口から発せられる言葉です。
お腹いっぱいだけれど、おかわりしたい。
でも、太るかな。
あの子の中では、こんな葛藤があるようですが、
いつも、あの子はその戦いに敗れ、私が作った料理が勝者です。
こんなに美味しいもの作らないでよ
俺が太ったら、お母さんのせいだからね
料理が苦手な私ですが、
いつの頃からか、
こんなに嬉しい、お怒りの言葉を頂戴出来るようになったのです。
あの子の食欲が止まりません。
いつか、あなたにそんな手紙を書きましたが、
その勢いは収まることを知らず、勢力を増すばかりです。
たくさん作ったはずの料理は、次々とあの子の細い体へと収まります。
太る気配など、全く感じられませんが、
体型を気にするあの子は、
太るのは困るなどと言いながらも、食欲が止まらない様子。
たくさん作ったからね
あの子が、たくさん食べてくれることが嬉しくて、
私も、ついつい勧めてしまうのです。
おかわりをしてくれるあの子を見つめながら、
ふと、思い出したのは、
あなたの好物を並べた、ある日の夕食の時のあなたの顔でした。
食卓に並んだ食事を前に、
嬉しそうに、いただきますの挨拶をしてくれたあなた。
あの時のあなたったら、食べる前から、
おかわりある?って、
そんなことを言うのが、なんだか、とても可笑しかった。
今の私なら、もっとたくさん、
あなたのあんな顔を見ることが出来たのかも知れませんね。
昨日よりも今日。
今日よりも明日。
気が付いてみれば、苦手な料理も、
少しずつ、成長を重ねることが出来ているようです。
あなたなら、どんな顔で喜んでくれるのだろう。
時々、胸の奥が痛むけれど、
今、私の目の前にある、あの子の笑顔を大切に、
成長していけたらいいなって思っています。