そういえば、おじいさんは、さっきから、支度をしろと騒いでいる。
私の夢を叶えてくれるとも。
一体、何のことだろう。
「えっと、どこに、ですか?」
「あれ?空を見上げて、お願いしてなかったかな?彼に逢いたいって。
さて、その彼とは、何処にいるのかな。」
両手を腰に当てて、胸を張り、どうだと言わんばかりの顔で、
今夜は、その願いを叶えに来たのだと言う。
「え?今ですか?」
本当に彼に逢えるのだろうか。
突然現れた目の前のおじいさんをジッとみつめながら考えた。
もしも、彼に逢えるのなら、今すぐにでも、逢いに行きたい。
確かに、私は、彼の言う通り、空を見上げては、彼に逢いたいと願っていた。
「もう一度だけ、彼に逢いたい。」
静かな声で、私の願いを口にしたのは、おじいさんだった。
もう一度だけ。
その一度を、今、使ってもいいのだろうか。
いや、駄目だ。駄目に決まってる。
私には、夢がある。
もしも、一度だけ、彼に逢いたいという願いが叶うのなら、
私の夢が叶った時に逢いたい。
頑張っているよ。
なんの一点の曇りもなく、笑顔で、彼にそう報告するために。
「ごめんなさい。今はまだ、彼には逢えません。
逢いたいけれど、逢いたくないんです。」
お爺さんは、首を傾げて、私の言葉を繰り返した。
逢いたいけれど、逢いたくない・・・