帰り道。
私は、マザーリーフへと乗り込んだ瞬間に、盛大に泣いた。
気持ちを抑えることなんて、出来なかった。
本当は、彼に涙を見せるつもりなんてなかった。
笑顔で、その限られた時間を過ごしたかったのだ。
それなのに、彼の姿を見た途端に、大泣きして、
おまけに鼻水まで垂らして、彼に笑われたではないか。
でも、彼は、笑いながら鼻水を拭ってくれた。
彼は、彼のままだった。
「最愛の人と離れるのは辛かったであろう。」
ふと、横を見れば、おじいさんが泣いていた。
そうして、徐に、大きなハンカチを取り出すと、
チーンと盛大に鼻をかんだ。
なんだかその音が可笑しくて、思わず笑ってしまった。
ずっと思っていたけれど、このおじいさんは、
神様に近い存在であるにも関わらず、なんだかとても、人間に近いような気がする。
こうやって、痛みを理解しようとしてくれるのは、
優しい心の持ち主だからなのだろう。
神様とか、その類のものは、もっと冷酷なイメージがあった。
人間のような感情なんて、持ち合わせてはいないのだと思っていた。
でも、それは違うのかも知れない。
いつか、このおじいさんが神様になれる日が来たのなら、
きっと、とても優しい神様になるんだろうな。
大きなハンカチをしまうと、おじいさんは、話し始めた。
「お前は、神を恨んだことがあったな?
何故、彼を生かしてくれなかったのか、彼を返せと、酷く、神を恨んだな?
でも、人間の生死は、神にはどうも出来んのじゃよ。
それは、神が決めることではない。
・・・
試練という言葉があるじゃろ?
人間は、誰しも、試練を乗り越えねばならないのだ。
でもそれは、人間を苦しめるためにあるのとは違うのじゃよ。
大きな夢を叶えるためには、
大きな辛いことを糧にしなければならないこともあるのじゃ。
お前はまだ、試練を乗り越えている最中じゃ。
いつかそれを乗り越えた時に、わしの言っている意味が分かるじゃろう。
自分の思った通りに、真っ直ぐ、歩んでいくのじゃぞ?」
私を真っ直ぐに捕らえた、ブルーグリーンの瞳は、
深く、とても優しい色をしていた。
おじいさんの話を黙って聞きながら、私は、ただ頷くことしか出来なかった。
ずっと先になるかも知れないけれど、
いつか、私にも理解出来る日が、きっと来るのだろう。