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これは誰にも話したことのない
8月8日で止まるカウントダウン
私の中に
このカウンターが設置されたのは
彼が亡くなった翌年のことだった
カウントダウンが始まると
私にまとわりつく夏の暑さに
息が出来なくなるような苦しさを覚える
目の前で心臓が止まりかけた彼に
何も出来ないまま
泣きながら
ただ彼の名前を呼び続けるしかなかったこと
彼が息を引き取った日のことや
彼が息を引き取ってからの
自分が生きているのか死んでいるのか
よく分からない時間を過ごしたこと
私の中に
勝手に設置されてしまったカウンターの音は
ご丁寧に
この人生の中で一番辛かった
あの頃の時間を
鮮明に思い出させてくれる
今年も8月に入ると
例外なく
カウントダウンが始まった
1日に一度
カチッという音と共に
ひとつ数字が減っていく
手を触れることが出来ないカウンターを
止める術が見つからず
今年もまた諦めて
カウントダウンを受け入れた
8月8日になると
カウンターは0を表示し
カウントダウンが止まった
辺りを見渡しながら
この瞳に映るものが
鮮明であることを確認する
今年も
泣き叫びたくなるような衝動を
堪えることが出来た
今年もまた 私の勝ちだ
来年の私も
再来年の私も
きっとその先もずっと
私はこのカウンターの音と
戦い続けることになるのだと思う
それでも
私はこの先もずっと
平然とした顔で
夏が好きだと言い続けるのだろう
特に彼と出会った8月が好きだと
このカウントダウンになど
負ける気はしないと
胸を張って言っておく
私が好きな夏に
彼は此処からいなくなってしまったけれど
私が好きな夏に
彼と出会ったのだから