寒さも和らぎ、春の陽気を感じられるようになった。
連日、青空が広がり、
日中には、暖かく柔らかな風が吹いていたのは、昨日までのこと。
窓の外を確認しなくても、今日の天気が分かってしまう。
今日は、朝から土砂降りの雨。
お誕生日、おめでとう。
朝、目が覚めると、あの子から、メッセージが届いていた。
今日は、私の誕生日だ。
誕生日に、雨か。
布団から抜け出すと、
厚い雲から落ちてくる雨粒を眺めながら、
ため息の代わりに、私の口から出たのは、
「ラッキー」なんて、喜びの声。
実は、先日、とても素敵な傘を見つけて、購入したものの、
連日の青空に、なかなか使うチャンスがなかったのだ。
新しい傘を差して、散歩に出掛けよう。
朝から、ウキウキと、支度を整えた。
行先は、近所の公園まで。
玄関を開ける頃には、幾分、雨は弱まり、
傘を差すと、心地の良い雨の音が聞こえた。
雨の日の、誰もいない公園は、こっそりとお気に入りの空間だ。
静かな園内を、ゆっくりと楽しみながら、
傘に当たる音が鳴り止んだことに気が付き、空を見上げた。
さっきまでの厚い雲が嘘のように、晴れゆく空に見えたのは、
とても綺麗な虹だった。
ここは、空が綺麗に見える場所。
来て良かった。
私は、虹が消えるまで、空を眺め続けた。
『誕生日、おめでとう。』
画面の向こう側から聞こえたのは、クラッカーの音だ。
「ありがとう。ねぇ、あなた。
あれは、誕生日のプレゼントなの?」
『あぁ、気付いてくれたんだ?
そう。俺からの誕生日プレゼントだよ。』
あれ、とは、今日見えた虹のこと。
なんとなく、そんな気がしていた。
きっと、これまでも、彼は、こんなふうに、空の彼方から、
私に、たくさんのプレゼントを送ってくれていたのだろう。
元気がない時に、みつけた飛行機雲も、
思い悩みながら見上げた空に、みつけたハートの形をした雲も、
それらは、全て、
彼からの贈り物だったのだと思う。
彼はきっと、私が考えていたよりもずっと、
ここにいるよ、側にいるよ と、
これまでずっと、私に語りかけてくれていたのかも知れない。
いつでも、偶然を装ったそれらの出来事は、
きっと、必然だったのだろう。