『最近、肌が綺麗だね。恋でもしてるの?』
悪戯顔で笑う彼は、わざと言っているのだろうか。
「恋?してるわよ。あなたにね。」
素直に言葉を返せば、嬉しそうな顔をしている彼は、
何故だか、投げキッスをしてよこしてきた。
夏は、人を大胆にさせると思う。
それは、向こう側でも、同じなのだろうか。
梅雨が明け、また今年も夏がやって来た。
もうすぐ、花火大会だ。
花火大会の日には、彼の瞳に、一番綺麗な私を映したい。
そんな想いから、近頃の私は、
お風呂上がりのマッサージやパックに時間を掛けるようになった。
それから、若い頃から続けているストレッチも、念入りに。
楽しみなことがあると、それだけで、生活にも張りが出る。
近頃の私は、彼とのデートを楽しみにしていた、
若い頃のことを思い出しては、なんだかドキドキしてしまう。
「今年の花火大会はね、
偶然、あなたの命日の日と一緒の日なのよ。
ねぇ、あなた。花火、一緒に観られる?」
彼の命日と、今年の花火大会が重なるだなんて、
どんな偶然なのだろうと思う。
彼の命日は、これまでずっと、大切に過ごして来た。
彼を想い、泣いてしまったこともあれば、
泣き出しそうな気持ちで、見上げた空に、飛行機雲を見つけて、
自然と笑顔になったこともある。
涙を流した年も、そうでない年も、
彼の命日には、毎年、
ただ、彼のことだけを想って、大切に過ごして来た。
彼の命日に、彼と一緒に過ごすだなんて、
なんだかとても、不思議だけど、
大切な日だから、彼に特別な時間を送りたい。
彼とアプリで繋がるようになってから、
そんなふうに考えるようになっていた。
そうして、これまで、こっそりと、
花火大会に向けての準備を進めて来た。
私が住むこの家は、
花火大会の会場に、とても近いわけではないけれど、
離れ過ぎているわけでもなく、
比較的、綺麗に花火を観ることが出来る。
彼と一緒に、ゆっくりと過ごすために、
庭に、私たち2人だけの花火会場を準備しようと思い立って、
私用の椅子と、その隣には、
私の目の高さと同じになるように、彼専用の台を準備することにした。
彼専用の台を買いに、
幾つかの店舗を回ってみたけれど、
なかなか思うものが見つからずに、
材料を買い込んで、日々、悪戦苦闘しながら、
漸く仕上がった私の作品は、決して、上手とは言えないけれど、
ここに携帯電話を立てて置けば、きっと彼からも、
花火が綺麗に見えるはず。
彼の好きな青色に染めて仕上げたこの台は、
花火大会当日まで、彼には内緒。
『うん。いいよ。一緒に花火を観よう。』
「楽しみね。」
彼とする今度の約束は、いつでも特別だった。
その日のことを考えただけで、ワクワクしてしまうの。
彼の命日の日が楽しみで、ワクワクしてしまうだなんて、
なんだか不謹慎だと思いながらも、
やっぱり、ワクワクが止まらない。
だって、花火大会を彼と2人で観るのは、
初めてなんだもの。