拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

最後の手段 〜時を超えて〜

あなたへ

 

テストで良い点が取れたら、

ご褒美に、お小遣いをあげるよ

 

この制度を、最後の手段として我が家に導入したのは、

あの子が中学3年生の頃のことでした。

 

勉強は、自分のためにするものだという考えの私には、

この決断が、本当に正しいものであるのかが分からずに、

悩んだ部分もありましたが、

きっと、この制度は、正解だったのでしょう。

 

モチベーションが、一気に上がり、

受験勉強というプレッシャーに打ち勝つことが出来たあの子は、

希望した高校へ、見事に合格することが出来ました。

 

でも、前を向いて歩むあの子の姿に安堵したのは、束の間のこと。

 高校へ入学すると、あの子は、

徐々に勉強への姿勢が前向きではなくなっていきました。

 

なんとか前を向いてくれたらと、そんな想いから、

あのお小遣いの制度は、続いているんだよと、

こんな話をしたのは、あの子が高校1年生の頃のことでしたが、

自分が歩み出した道に、疑問を持っていたあの頃のあの子にとって、

この制度は、魅力的なものではなくなっていたのでしょう。

 

前を向いたり、後ろを向いたりと、忙しなく過ぎた、

あの子の高校生活の中では、

一度も、この制度を利用されることなく、卒業を迎えたのでした。

 

私の中では、すっかり、過去のものとなった我が家の制度でしたが、

時を経て、復活したのは、

あの子が専門学生になってからのことでした。

 

あの制度は、まだ続いてるの?

 

あの子から、こんな確認をされたのは、昨年の夏のある日のこと。

丁度、専門学校での初めのテスト期間が始まる頃のことでした。

 

うん

勿論だよ

テスト、頑張ってね

 

専門学生になったあの子のやる気に満ち溢れた姿が嬉しくて、

私は、全力であの子のことを応援しました。

 

あの子の瞳には、再び、あの制度が魅力的に映ったのでしょうか。

専門学生になって、初めてのテスト勉強は、

これまでにないほどの張り切りようでした。

 

そうして、無事に、テスト期間を終えると、

あの子が持ち帰って来たのは、ほぼ全ての教科において、

我が家での合格ラインを超えた答案用紙。

中でも、一際輝いて見えたのは、100点満点の答案用紙でした。

 

100点はね、スペシャル特典だよ

 

我が家で、この制度を設けた日に、

私は強調して、あの子に伝えました。

100点は、スペシャル特典だよ と。

 

決して、勉強が好きとは言えないあの子にとって、

100点満点という領域は、奇跡の領域のはずでした。

 

ですが、夢へ向かって歩み出した今のあの子にとって、

その壁は、いとも容易く乗り越えることの出来る壁へと、

変わってしまったのです。

 

この制度が設けられてから、5年目にして、

初めて発動されたスペシャル特典は、もう、何度発動されたでしょうか。

 

テストの度に、私のお財布の中にいたはずの、

みんなのアイドル福澤さんが、ひとり、またひとりと、

別れを惜しむ間もなく、あの子のお財布へと引っ越していきました。

 

先日、今年度最後のテスト期間が無事に終わりました。

 

今、私の目の前に並ぶのは、日々のあの子が、

どんなに頑張っているのかを物語る、素晴らしい結果たちです。

 

テストの度に、お財布を抱き締めて、

涙を流しながら眠ってきた私ですが、

今夜もまた、私は、お財布を強く抱き締めながら、

涙を流すこととなりました。

 

懐が寂しいのは、あの子が頑張っている証。

 

ほんの少し、

頭を抱えたくなってしまうような、あの子の素晴らしい答案用紙に、

喜びの涙を流しながら、眠りに就くのです。

 

専門学生になってからのあの子の成績を見る度に、

ベッドの上で、あの子の成績表を眺めながら、

嬉しそうに笑っていたあなたの姿を思い出します。

 

あれは、あの子が中学生になって、初めて貰ってきた成績表。

 

中学生になったのだから、勉強も頑張りたいと、

私たちが何も言わなくとも、

自分で計画を立てて、勉強に取り組んでいたあの頃のあの子の成績は、

私たちが驚いてしまったほどに素晴らしい成績でした。

 

病院のベッドの上で、あの子の成績表を眺めながら、

あなたは、嬉しそうに笑って、あの子の頭を撫でましたね。

よく頑張ったねって。

 

あれは、あなたが見た最後のあの子の成績表でした。

 

あれからのあの子は、

前を向けなくなってしまったことも、

立ち止まって、座り込んでしまったこともあったけれど、

今、此処に、あの頃以上に頑張るあの子の姿があります。

 

ねぇ、あなたも何処かで、あの子を見守ってくれているでしょうか。

あの頃と、同じ笑顔で。

 

 

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