拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

ダイヤルロック

あなたへ

 

ねぇ、このダイヤルロックの番号って、何だっけ?

 

先日のこんなあの子の言葉から、思い出していたのは、

あの子が中学生だった頃の不思議な出来事でした。

 

あの子が宿泊学習へ出掛けたのは、

あなたを見送ってから、どれくらいが経った頃のことだったでしょうか。

 

旅行用のバッグや、洗面用具、着替えなど、一通りのものを揃え、

楽しみにしていた宿泊学習でしたが、

鍵が見当たらないとあの子が騒いだのは、

宿泊学習へ出掛ける前日の夜のことでした。

 

あの子が気に入ったバッグは、

鍵が付いていないタイプのものだったため、

鍵を別で買おうかと提案しましたが、

前に買ったものを使うから買わなくて良いよと、こんなあの子の言葉に、

新しい鍵は、買わずに買い物を終えたのでした。

 

ですが、宿泊学習の前日になると、

前に買ったはずの鍵が見当たらない騒ぎです。

 

時計を見てみれば、もう、どこのお店も閉店している時間でした。

どうしたものかと考える私を他所に、

 

そうだ!お父さんのダイヤルロックを使おう!

 

こんなことを言い出したあの子は、

棚の中を何やらゴソゴソと漁り、

いつかのあなたが買ったダイヤルロックを発掘。

 

でも、ロックが掛かったままで保管されていたその鍵を、

解除する番号が、分かりませんでした。

 

3人分の誕生日に合わせてみても、

他の記念日に合わせてみても、解除出来なかったダイヤルロック。

 

適当に番号を組み合わせてみても、開くことが出来ないままに、

やがて、あの子は諦め、布団へと入りました。

 

別に鍵は掛けなくても問題ないよ

こんな言葉と共に。

 

ところがです。

 

頭の中に番号が浮かんだ

 

そう言って、

おやすみの挨拶から、間も無くに起き出してきたあの子が番号を合わせると、

なんと、ダイヤルロックを解除することが出来たのです。

 

誰かの誕生日でも、記念日でもなく、

我が家にとって、なんの関係もないその数字は、

恐らく、ダイヤルロックを買った時から、決まっていた番号だったのでしょう。

 

あなたしか知らなかったはずのダイヤルロックの番号を、

あの子の頭に浮かんだという数字で、

解除出来てしまったことに、とても驚きましたが、

よく考えてみれば、それ以前に、

自分の鍵を、何処へ仕舞ったのかを忘れてしまったあの子が、

何故、あなたのダイヤルロックを仕舞ってある場所が、

すぐに分かったのでしょうか。

 

私は、そんな場所にダイヤルロックが仕舞ってあったことなど、

知りませんでした。

 

あの日、鍵が見つからないと騒いだあの子に、

 

お父さんのダイヤルロックを使うといいよ

あそこに仕舞ってあるから

番号はね

 

あなたが、こんなふうに、

話し掛けていたとしか思えないような、不思議な出来事でした。

 

あの出来事から、特に使う用事のないままに、

あの子のバッグに付けっ放しになっていたダイヤルロックを、

あの子が私のところに持って来たのは、先日のことでした。

 

ねぇ、このダイヤルロックの番号って、何だっけ?って。

 

幾つかの番号を合わせてみたものの、

解除することの出来なかったダイヤルロックを見つめながら、

あなたも番号を忘れてしまったから、もう、教えてはくれないのかなって、

こんなことを考えていました。

 

ねぇ、あなたはとても不思議ですね。

 

あなたへのこの手紙を書きながら、

あの頃の記憶を辿っていた私の中に、

ふと浮かんだ番号を合わせてみたら、

ロックを解除することが出来ました。

 

なんだか、とても不思議な気持ちがします。

 

ねぇ、あなた。

この番号、何だったかな?

 

こんな私の声に応えるかのように、ふと頭の中に浮かんだ数字。

 

あぁ、その番号はねって、

あなたのその声が、耳には届かないままに、

あなたとお喋りをした気分です。

 

中学生だった頃のあの子はきっと、

こんなふうに頭の中に番号が浮かんで、

ダイヤルロックを解除することができたのですね。

 

おぉ・・・開いたよ!あなた!

 

思わず漏れ出てしまったこんな私の声を、

あなたは、すぐ側で、聞いていてくれたのでしょうか。