拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

イヤホンマイク

あなたへ

 

先日、押し入れの中を掃除しながら、見つけたのは、

あなたが使っていた、ハンズフリーのイヤホンマイクでした。

 

これ、お父さんのだよね?

俺が貰ってもいい?

 

あの子は、なんだかとても嬉しそうに、

あなたのイヤホンマイクを手に取りました。

 

勿論、いいよ

 

あの子の声に、返事をしながら、ふと思い出していたのは、

いつかのあなたと笑った日のことでした。

 

仕事中に、電話が掛かって来ることが多かったあなた。

両手が塞がっていることもしばしばで、

携帯電話をポケットから出すのも面倒。

 

効率良く仕事を熟すためにと、

片耳用のハンズフリーイヤホンマイクを購入したはずでしたが、

長めの髪に、イヤホンマイクが隠れてしまっていたせいもあったのでしょう。

 

仕事仲間からは、イヤホンマイクを使って、通話をしていることに気付かれずに、

最近、独り言が多いらしいと陰で囁かれ、

疲れているのではないかと、

とても気遣われてしまったというエピソードがありましたね。

 

なんとなく、イヤホンマイクを使って、

通話をしていることを言い出せなくなってしまったあなたの、

あの時の策はと言えば。

 

だからさ、携帯電話は、胸ポケットに入っているんだけれど、

一応、イヤホンを手で押さえる感じで、

なんとなく、手を耳に持っていくポーズで話しているんだよね

 

ハンズフリーのイヤホンマイクを使いながらも、

結局、片手が塞がる形は変わらずに、通話することになってしまったあなた。

何も持たない手を、態々、耳に持っていきながら話すあなたの姿を想像すると、

なんだかとても、可笑しかった。

 

それじゃ、携帯電話を耳に当てているのと同じじゃん

 

こんな私の言葉に、あなたと2人で笑いましたね。

 

あの頃のあなたが使っていたイヤホンマイクは、

今でも、正常に使うことが出来ました。

 

お母さん、俺に電話してみて?

 

短時間の間に、何度、通話テストに付き合わされたでしょうか。

小声で話してみたり、お互いに別々な部屋へ移動して、話してみたり。

様々なテストをしながら、あの子は、本当に嬉しそうでした。

 

幼かったあの子にとって、あなたが持っているものは、何でも、

「格好いい」の対象でした。

 

あなたのイヤホンマイクを手にした時のあの子は、

すぐ側にいてくれた、あの頃のあなたの格好いい姿を、

鮮明に思い出していたに違いありません。

 

パパ

格好いいね

 

あなたに憧れて、何でもあなたの真似をしていた、

幼かったあの子の姿を、あなたは覚えているでしょうか。

 

いつの日か、社会に出たあの子も、あなたみたいに、

イヤホンマイクを使いながら、仕事をする日が来るのかも知れません。

 

その時のあの子はきっと、鏡の向こう側に、見つけるのでしょう。

幼い頃に憧れていた、恰好いいあなたと同じ姿を。