拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

二つ折りの携帯電話に詰まった時間

あなたへ

 

ガラケーと呼ばれる、カメラ機能が付いた二つ折りの携帯電話を、

初めて購入したのは、

あの子が、1歳のお誕生日を迎える頃のことでした。

 

デジタルカメラを持ち合わせていなくても、

いつでも写真を撮ることが出来たカメラ付きの携帯電話は、

あの頃の私たちにとって、非常に機能的な携帯電話でしたね。

 

画質は、ちょっと粗かったですが、

携帯電話で写真を撮っては感動したこと、今でもよく覚えています。

 

二つ折りの携帯電話を卒業し、やがてアイフォンへと変更した私たちですが、

朝が弱い私は、

この二つ折りの携帯電話を目覚ましの代わりとして使用しました。

 

幾つになっても、相変わらず、朝が弱い私は、

あなたが此処にいてくれた頃から変わらずに、

二つ折りの携帯電話を目覚まし代わりに使っていますが、

あの頃と同じように、携帯電話を枕元に並べながらも、

それ以上の機能に触れることが出来ないままに、これまでを過ごして来ました。

 

充電が満タンになった携帯電話を見つめた私が、

突然に、何の躊躇いもなく、写真のフォルダを開くことが出来たのは、

何故だったのでしょうか。

 

カメラのこちら側にいる私に、笑い掛ける小さなあの子。

泣いているあの子。

 

1枚ずつ、写真をスクロールさせると、

あの頃の何気ない1日1日が、そこに収められていました。

 

私がふと、手を止めたのは、

腕に抱いたあの子に笑い掛けるあなたの写真。

 

写真の背景や、あなたの服装から、

この写真を撮った日のことが鮮明に蘇りました。

 

家のすぐ側の会社で仕事をしていあの頃のあなたは、

休憩時間に、少しでも時間を見つけると、家に帰って来て、

あの子との時間を過ごしていましたね。

 

帰って来たかと思えば、すぐに会社へと戻ってしまう。

なんだかとても、慌ただしい休憩時間であった筈ですが、

仕事が忙しく、遅い時間に帰って来ることも多かったあなたにとって、

あの僅かな時間は、掛け替えの無い時間だったのでしょう。

 

そんな慌ただしい時間を切り取った1枚の写真からは、

大好きだよって、

小さなあの子へ向けた、あなたの声が聞こえて来たような気がしました。

 

私の隣に座って、一緒に携帯電話の画面を見ていたあの子に、

あの頃のあなたの話を聞かせると、

あの子は、ポツリと言いました。

俺もいつか、そんなお父さんになるのかなって。

 

もう、二度と、

二つ折りの携帯電話に収められた写真を見ることは、

出来ないのだと思っていました。

 

心の準備も、何もないまま、突然に、

あの頃のあなたに逢いに行ける日が来るだなんて、

考えたこともなかったけれど、

きっと、これから先の私にも、こんなふうに突然に、

何の躊躇もないままに、

あの頃のあなたに逢いに行ける瞬間がやって来るのでしょう。

 

そこで見つけた宝物を、

ひとつひとつ、大切に拾い集めながら、

ゆっくりと、歩んで行けたら良いな。

 

あの子の記憶には残ってはいない、あの頃の写真を見せることが出来たのも、

蘇ったあなたとの時間を、

あの子に話して聞かせてあげることが出来たのも、

全部、良かった。

 

あの子の中にはきっと、新しい記憶として、

あの頃のあなたの笑顔が、刻まれたことでしょう。