あなたへ
通勤途中に見かけたのは、真新しい制服に身を包み、
お母さんに手を引かれて登園する幼稚園生の姿でした。
可愛いな
信号待ちに、小さく可愛らしいその姿を眺めながら、
ふと、思い出したのは、
たった一度だけ、
幼稚園には行きたくないと泣いたあの子のことでした。
あれは、あの子が幼稚園に入園し、
その生活に、徐々に慣れて始めてきた5月のこと。
意地悪する子がいるから、幼稚園には行かない
あの日のあの子はそう言って、バス停までの道のりにある、
電柱や看板にしがみつき、なかなかバス停へ行こうとはしませんでした。
強くなりなさい
泣いて嫌がるあの子を引きずって、
バス停まで連れて行ったあの時の私には、
嫌なことから逃げるのではなく、
向き合う術を身に付けて欲しいと、
こんな想いがありました。
いつもなら、バスの席に座ると、
ニコニコとしながら、手を振ってくれるあの子ですが、
あの日だけは、引率の先生に抱かれ、涙を流したまま、
こちらを見てはくれませんでした。
あの時の私は、
溢れそうな涙を、必死で堪えて、バスを見送ったのでした。
これからきっと、いくつもの試練を乗り越えて生きていくあの子。
私たちはいつまでも、あの子のすぐ側で、
守ってあげられるわけではないのだと、
あの時の私は、こんな想いで、心を鬼にしましたが、
今日は幼稚園をお休みして、ママと遊ぼうかって、
一度くらい、こんな時間を作ってみても良かったのかも知れないと、
今になって初めて、
こんな気持ちで、あの日のことを振り返りました。
今、此処にいるのは、
自分で見つけた夢へ向かって、真っ直ぐに歩む19歳のあの子。
あの時、一度くらい、幼稚園を休ませたとしても、きっと、
此処にいるあの子は、変わらないんだろうな。
全力で課題に取り組むあの子を見守りながら、
ふと、そんなことを考えました。
あの子の泣き顔を見て、心を痛めるよりも、
側に寄り添って、あの子を笑顔にした方が、良かったのかも知れないなって。
年を重ねなければ、
子の成長を大きくなるまで見守らなければ、
見えないものも、たくさんあるのかも知れません。
成長した我が子を見て、初めて気が付くことも、
きっと、たくさんあるのでしょう。
これからの私は、きっとこうして、少しずつ、
親としての反省会をしていくのかも知れませんね。
あの時の自分の行動は、本当に正しかったのかなって。
もしも今、あなたと、あの頃の話が出来たとしたのなら、
あなたは、どんな話を聞かせてくれるのでしょうか。