あなたへ
ねぇ、あなたは知っていましたか。
死別後の再婚はね、
とても難しいと言われているそうですよ。
あの日のあなたの言葉を思い返しては、
いつか、あなたに伝えなければいけないと、思っていたことがあります。
あれは、昨年のお盆の前日のことでした。
あなたの夢を見ました。
家族3人で過ごす夢でしたが、夢の中の私は、
あなたが亡くなっていることを知っていました。
帰って来てくれたあなたと、家族3人で、何気ない時間を過ごす中、
あなたは言ったの。
あと5年くらいが経ったら、再婚したらいいよって。
あなたの言葉に驚いた私は、
何の言葉も出ないままに、夢から覚めてしまいました。
明日はあなたが帰って来てくれるのだと、
楽しみに眠りに就いたはずだったのに、
お盆の初日の朝は、
夢から覚めるなり、泣き出しそうな気持ちでいっぱいでした。
おかえりなさい
あれは、冗談だよね?
あなたに手を合わせながら呟いた、こんな私の声を、
あなたは、すぐ側で聞いていたのでしょうか。
あなたが帰って来てくれるからと、
たくさん準備したあなたへのお菓子の中のひとつ。
お守りのようなおまけのついたお菓子に目が止まったあの時の私は、
何故だかそこに、あなたからの言葉が書いてあるような気がして、
中身を見てみることにしたのでした。
緊張しながら、
ゆっくりと、袋を開封した私の目に飛び込んできた言葉を見て、
思わず、動きが止まりました。
そこには、なんて書いてあったと思いますか。
恋愛祈願
これじゃ、
あなたから、別な人との恋愛を勧められているように見えるじゃないですか。
この出来過ぎた一連の流れに、
私は、涙を流すことも忘れて、笑いました。
冗談・・・ですよね?
あの夢を見た夏から5年後。
その頃の私は、きっと、ひとりで生活をしているのでしょう。
あの子は、社会人となり、遠い地で頑張っているのかも知れません。
子育てを終えて、1人になったら、誰か良い人を探したら良いよと、
こういうことなのでしょうか。
あれから、何度も、あの夢の中でのあなたの言葉を思い返しては、
あれはただの夢で、あなたの言葉ではないと、
そう自分に言い聞かせてみたけれど、
あなたを見送ってからの不思議な出来事や、夢の中を思い返せば、
それだけが、ただの夢だったというのも、
なんだか、都合が良すぎるような気がしました。
では、あの言葉は、
そちら側のあなたからの想いだったのでしょうか。
本当は、あの夢を見た夏から5年後に、
私は、私の意思で、今もひとりなのだと、
こんな手紙を書こうかと思っていたけれど、
今のあなたには、私たちには計り知れない力がある。
偶然に偶然を重ねて、
時に、私たちを守ってくれたり、その想いを伝えてくれたり。
そらなら、偶然に偶然を重ねた形で、
他の誰かと出会わせるような力だって、持っているのかも知れません。
だから、早くに伝えなければならないと思いました。
これは、私からあなたへの意思表示です。
私は、他の誰かと一緒に生きて行くつもりはないんだよって。
あなたが私の目の前に連れて来た相手が、
例え、私好みのイケメンで、
背が高くて、
髪がサラサラで、
笑顔が素敵で、
優しくて、
包容力があって、
透き通った声の持ち主であっても、です。
どんなに素敵な人を私の目の前に連れて来ても、
私にとって、あなた以上の人なんて、この世界には、いないのよ。
それに、私はいつでも、
あの子が、安心して帰って来れる場所でありたいと思っています。
あの子が大人になって、巣立って行っても、
あの子が帰りたくなったら、いつでも帰れる場所でありたい。
もしもそこに、あなた以外の誰かが一緒にいれば、
あの子にとって、
いつでも帰れる場所ではなくなってしまうと思うのです。
本当は、寂しいくせに、
お母さんが幸せなら、それで良いんだよ
なんて、きっとあの子は、こんなふうに言うのでしょう。
あの夏のあなたのその温かな手を、
我慢して、離さなければならなかったのは、あの子も同じ。
もう、二度と、あの子に寂しい思いをさせては、いけないの。
あなたを見送ったばかりの頃は、
どうしたら良いの分からずに、泣いてばかりいた私だったけれど、
あの夏から、ゆっくりと歩みながら、
漸く、自分の生き方を見つけたの。
あなたがくれた、たくさんの宝物に囲まれて生きて行こうって。
これからの私だって、時々には、
あなたを想い、涙を流す日もあれば、
後ろ向きに座り込んでしまう日も、きっとあるけれど、
心配しないで。
私は、大丈夫だから。
いつか、この人生の終わりが来て、
この肉体から私の魂が離れたら、
あなたと一緒に、納骨して欲しい。
これが私の答えだと、
先日、こんな手紙を書きましたね。
あなたと私。
この世界に生きた長さは違うけれど、
最後の時は、2人で手を繋ぐように、
この世界を後にしたい。
ほらね?
死別後の再婚は、こんなに難しい。
人それぞれ、考え方は違うけれど、
少なくとも、私には、死別後の再婚は向かないのよ。
だって、私は、こんなに、あなたのことが大好きなのだから。