拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

名前も知らない彼の言葉

あなたへ

 

人生、こんなものですよ

 

この言葉が、あの子と私の中に深く根付いたのは、

間も無く、この場所へ引っ越そうとしている頃のことでした。

 

あれは、ライフラインの開通作業の日のこと。

 

あの日は、作業員の方と私の都合が合わずに、

事前に確認した上で、あの子に立ち会いをお願いした日でした。

ただ、居てくれるだけで良いからねって。

 

作業に来てくれたのは、2人の男性。

1人は、ベテランの男性、

もう1人は、まだ若い男性だったそうです。

 

お幾つですか?

 

若い男性に声を掛けられたあの子が、

中学3年生であることを答えると、

 

若いって良いですね

僕も君くらいの歳の頃には、無限の可能性を信じていましたよ

将来、何にでもなれると思っていました

なんで俺、この仕事をしているんだろう

人生、こんなものですよ

 

こんなふうに、笑って話をしてくれたそうです。

 

短い世間話の中、

若い男性が、長くスポーツをしていたことや、

専門的な学校へと進学し、卒業後に、この会社へ就職したこと、

入社してから、1年か2年程であることを計り知ることが出来たそうです。

 

あの日、仕事から帰った私に、

立ち会いの間の出来事を話して聞かせてくれたあの子。

 

人生、こんなものですよ

 

このフレーズが、なんだかとても可笑しくて、

この言葉は、そのまま、私たちの中に、

何年も、根付くことになりました。

 

例えば、やる気が起きない時、

数年後の未来を思い浮かべては、

このままじゃ、人生こんなものですよ

こんな言葉を口にする未来になってしまうよね なんて、

冗談を言いながら、

私たちは、時に、彼の言葉を糧に、歩んでいます。

 

あの子に声を掛けてくれた若い男性が中学生だった頃には、

何か別な未来を夢見ていたのかも知れないけれど、

きっとね、彼の言葉は、決して本気ではなかったのだと思います。

 

きっと、軽い気持ちで言ったのであろう彼の言葉ですが、

あの日の彼の言葉は、

未来の私たちの糧となる贈り物となりました。

 

名前も知らない誰かが、何気なく言った言葉が、

いつまでも忘れることの出来ない言葉となり、

糧となることも、あるんですね。

 

時々、彼の言葉を思い出しては、

今、私たちが此処にあるのは、

あの日の彼がくれた言葉のお陰でもあるのだと、

忘れることの出来ない言葉をくれた彼に、感謝の気持ちを寄せています。

 

彼の未来が、ずっと明るいものでありますようにと、

そっと祈りながら。