拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

食品サンプル

あなたへ

 

あの子との雑談の中、

飲食店の入り口に飾ってある食品サンプルの話になったのは、

先日のことでした。

 

あれってさ、見本なんでしょ?

実際に運ばれてきたものが、少し見本と違うこともあるんだよね?

 

あの子のこんな言葉に思い出していたのは、私が高校生だった頃の思い出でした。

 

あの頃、友人と共にブームとなっていたのは、

入ったことのない飲食店を見つけては、開拓することでした。

 

今は、インターネットを見てみれば、

お店の場所や雰囲気、評判なんかも知ることが出来る時代ですが、

噂を聞く以外に、知らないお店を知る手段などなかったあの頃。

 

新しく、お店の存在を知れば、ワクワクとし、

初めてのお店のドアを開く瞬間には、ほんの少しの緊張と、

大きな期待が込められていました。

 

あの日の私たちが見つけたのは、

注意して見てみなければ、

通り過ぎてしまうような入り口から入る喫茶店でした。

 

何度も通ったことのある道沿いにありながらも、

私たちは、あの日に初めて、そのお店の存在に気が付いたのでした。

 

入り口にある食品サンプルを確認すると、

綺麗なグラスに盛られた豪華なフルーツパフェが目に留まりました。

 

ここにしてみようよ

 

どちらからともなく、こんな言葉が出た私たち。

 

期待を込めて店内へと足を踏み入れ、席に着くと、

早速、先程、入り口で見たフルーツパフェを注文しました。

 

店内を見渡すと、昭和の時代を彷彿とさせるようなその雰囲気に、

ずっと昔から、その喫茶店が存在していたことが伺えました。

ともて静かで落ち着いた店内には、私たちの好みの空気が流れていました。

 

落ち着いた店内に合わせて、

小さな声でお喋りをしていた私たちの耳に届いたのは、店員さんの声。

 

お待たせ致しました

フルーツパフェです

 

声がした方へ顔を上げてみると、

白い平皿を持った店員さんの姿がそこにありました。

 

何かが違うような気がする・・・

 

私の小さな疑問を他所に、私たちの前には、

白い平皿が置かれました。

 

フルーツパフェです

 

確かに、店員さんのこんな声が聞こえたはずですが、

運ばれてきたものを見てみると、

平皿いっぱいに、

パフェの具材たちが並べられているではありませんか。

 

運ばれてきたものを、二度見、三度見する私たちを他所に、

店員さんは、そそくさと店の奥へと下がって行きました。

 

漸く、我に帰った私たちは、小さな声で呟きました。

 

これは、パフェ・・・なの?

 

あれは、

食品サンプルを鵜呑みにしてはいけないと学んだ日の出来事。

 

そうだね

食品サンプルは、あくまでもサンプルだからね

 

こんな言葉と共に、あの日のエピソードを話して聞かせれば、

あの子は爆笑しながら、言いました。

 

それ、パフェじゃないじゃん!

 

とても驚いた出来事でしたが、

今となっては、笑ってしまう良い思い出です。

 

何気ない雑談の中、こんなふうに蘇った記憶は、

これまでに、いくつ見つけてきたでしょうか。

 

きっと、あなたの中にも、

食品サンプルに纏わる、笑っちゃうような思い出話が、

ひとつくらいは、あったのではないでしょうか。

 

あなたの中に眠っていた記憶も、聞いてみたかったな。