あなたへ
あなたのその髪に、
その頬に、
触れられるような気がして、
そっと、遺影に手を伸ばしてみました。
とてもゆっくりと、静かに手を伸ばしたら、
もう一度だけ、あなたに触れられるような気がして。
こんなふうに、そっと静かに、
あなたの遺影に手を伸ばしたことは、
これまでに、何度、あったでしょうか。
指先に触れた硬いガラスの感触に落胆して、
ゆっくりと指先を離しながら、
じっと、あなたを見つめてみる。
あの夏から、此処に、あなたのその温もりを探しながら、
何度あなたに手を伸ばしてみても、
期待通りの温もりを感じることは出来なかったけれど、
あなたが、あまりにも穏やかに微笑んでくれるから、
いつか、もう一度だけ、
その髪に、その頬に、
触れられるような気がしてしまうよ。
もしも、もう一度だけ、
あなたに触れることが出来たのなら。
淡い期待を抱いて、これから先の私も、
こうして、あなたの遺影に手を伸ばしては、
硬いガラスの感触しか得られないままに、
きっと何度も、落胆するのでしょう。
でも、それでもいいの。
この先も、ずっと変わらずに、
その穏やかな顔で、笑い掛けていてね。
いつか、もう一度だけ。
こんな気持ちにさせてくれる、
その穏やかな顔が、とても好きだから。