あなたへ
あの頃の私は、あの日、あなたと一緒に死んでしまったのだ。
そう気が付いたのは、
あなたを見送ってから、5年が経った頃のことでした。
単純で、明るくて、
深い悲しみも、苦しみも知らなかったあの頃の私は、
死んでしまったのだと気が付いた瞬間に、
この瞳に映る景色は、色を失いました。
もう、あの頃の私に戻ることは、二度とない。
酷く冷めた気持ちで、色がなくなった世界を眺めた私は、
どんな瞳をしていたのだろう。
今日のこちらでは、灰色の空が広がりました。
何処までも続く灰色の隙間から、ほんの少しだけ見えた青色に、
あの頃の私に、色をくれたあなたのことを思い出していました。
青に染めてあげるよ
あなたのこんな声が聞こえたのは、夢の中でのことでした。
あの日、あなたは、灰色の空を見上げた私に、
色を見せてくれましたね。
一度、色を失ったはずの私の世界に染まった青色、
今でも、よく覚えています。
此処は、あなたがいない世界。
それなのに、この瞳に映る色は、
あの日のあなたが染めてくれた色だから、
私はきっと、
この世界で、たくさんのものを見てみたいと思ってしまうんだね。
あの日、あなたが色をくれたから、
また、この世界を美しいと思えるようになったよ。