拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

ずっと、胸の中にしまっていたこと

あなたへ

 

今日は、ずっと、胸の奥にしまっていたことを話してもいいですか。

 

それは、あの夏のあなたの容態が急変し、

ICUに入ってから、息を引き取るまでのことです。

 

意識のないあなたの側に寄り添いながら、

ふと、私の中に、あの不思議な感覚を見つけたのは、いつのことだっただろう。

 

8月8日を乗り切ることが出来れば、あなたは、大丈夫

 

突然に、私の中に浮かんだのは、

こんな、言葉とも予感とも言い難い、想いのようなものでした。

 

今、思えば、

8月8日を乗り切ることが出来れば、あなたは大丈夫 は、

8月7日は、あなたと過ごせる最後になるのかも知れない とも言い換えられますが、

あの頃の私は、新しい朝を迎えることに対して、不安な気持ちはなく、

どう説明したら良いのか分かりませんが、

マイナスな考えが全く浮かぶことがないままに、

ただ、前向きで不思議な気持ちのまま、

8月8日を乗り切ることが出来れば、あなたは大丈夫なのだと、

そう考えていました。

 

何故、8月8日であったのかと聞かれたとしたのなら、

その日は、あなたのお父さんの誕生日だから

理由は、ただそれだけのことでした。

 

何故なのでしょうか。

漠然と、8月8日を過ぎれば、あなたは大丈夫だと考えていた私ですが、

不思議なことに、

8月7日には、そんなことを考えていたことすら忘れ、

翌日、あなたが息を引き取ると、

今日が8月8日であったことに、気が付いたのでした。

 

あれからの私は、あの夏に感じた不思議な流れを思い出しては、

誰に話すこともないままに、あの感覚は、一体、何だったのだろうかと考えました。

 

これまでに、何度も考えてきましたが、

何度、考えてみても、私の頭の中に浮かぶのは、

そちら側でのあなたのお父さんが、あなたを想う様子でした。

 

せめて、8月8日まで、時間をくれませんか

 

相手が誰なのか、私には分かりませんが、

自分の誕生日である8月8日まで、どうにか時間を伸ばしてほしいと、

そんなふうに、誰かに頭を下げる、お父さんの姿なのです。

 

あなたの容体が急変する前には、主治医の先生も驚くほどに回復し、

一般病棟へ移ることが出来ましたね。

 

あの時間は、ほんの僅かな時間でしたが、

私たちは、家族3人で、幸せな時間を過ごすことが出来ました。

そして、

今日は、2人で、ゆっくり話し込んじゃったよと、そう言って、

あなたと2人だけで過ごした時間を、楽しそうに話して聞かせてくれたのは、

丁度、あの頃のあなたのお母さんでした。

 

あの頃の私たちは、誰もが、そのまま快方へと向かって行くのだと、

そう信じて、前を向いていた幸せな時間でした。

 

あの奇跡のような時間も、

何故だか、

8月8日を乗り切ることが出来れば、あなたは大丈夫だと考えながらも、

後ろ向きな考えが一切なかった不思議な気持ちも、

全部、あなたのお父さんの力だったのでしょうか。

 

あなたのお父さんの最期の日は、家の中の皆が出払っていた日。

ひとりで玄関先で倒れ、冷たくなってしまってからの発見でした。

 

誰も、その最期の時を知らないままに、

顔に、白い布を掛けられた状態での対面でしたね。

 

それが遺された家族にとって、どんなに辛く苦しいことであるのか、

あの日のお父さんは、すぐ側で、そっと皆の様子を見ていたのかも知れません。

 

例え、寝たりになってしまったとしても、

少しくらい、面倒を見たかったと、

こんなあなたのお母さんの声を、すぐ側で聞いていたのかも知れません。

 

そしてきっと、お父さんも思っていたのでしょう。

もう少しだけ、側にいたかったと。

 

僅かな時間であったとしても、せめて息子には

 

何度、考えてみても、そんなお父さんの想いが、

あの頃の奇跡を起こしてくれたような気がしてならないのです。

 

何故、私の中に、8月8日の日付が浮かんだのかは、分かりませんが、

もしも、そこに理由があるとするのなら、

あなたの側に寄り添いながら、

過呼吸で苦しんだあの頃の私の辛さを取り除くために、

必要なことであったのかも知れません。

 

あの夏のあなたも、私たちも、そうとは知らぬままに、

そちら側のあなたのお父さんから、とても力強く、

守られていたような気がしてしまいます。

 

これは、どう話したら良いのかも分からずに、

ただの一度も、誰にも話すことなく、胸の奥へ、しまっていた話。

 

あなたを見送ってからの私は、

目には見えない不思議な力は、きっと存在するのだと、

そう考えさせられる数々のものを見つけてきました。

 

それは、無意識や直感と、深く繋がりのあるものなのでしょうか。

 

あの夏の時間の流れは、

そちら側の世界と、こちら側の世界は、

私たちが考えるよりも、ずっと深く、

複雑に結び付いているのかも知れないと、

そう考えさせられるような不思議な時間の流れでした。

 

 

 

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