拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

梅雨明けに蘇るセミ事件

あなたへ

 

毎日、空を見上げては、

梅雨明けを、とても楽しみに待っていました。

 

もうすぐ、梅雨明けするみたいだよ

 

職場で、こんな声が聞こえたのは、つい先日のこと。

その言葉の通り、こちらでは、

昨日、梅雨明けが発表されました。

 

今年初めてのセミの鳴き声が聞こえたのは、

数日前のことでしたが、

気が付けば、その鳴き声も、賑やかさを増し、

私を、より一層、楽しい気持ちにさせてくれます。

 

梅雨が明けたばかりの爽やかな空を見上げながら、

夏の音を楽しんでいた私の中に、ふと、蘇ったのは、

あの事件のことでした。

 

あれは、この場所へ引っ越してきてから、

何番目の夏のことだったでしょうか。

 

洗濯物を干そうと、ベランダに出ると、そこには、

1匹のセミが、ひっくり返っていました。

 

驚きすぎて、僅かに飛び上がってしまった私ですが、

その姿を遠巻きに見つめながら、

その最期が来たのであれば、

せめて、土の上に連れて行ってあげようと、

そう思い立ったのは、私なりの気遣いのつもりでした。

 

とは言え、虫が大の苦手な私には、

セミを素手で触る勇気までもは、持ち合わせてはいません。

そんな私が思いついたのは、箒と塵取りを使って、

土の上に連れて行こうというものでした。

 

箒と塵取りを使うにしても、

私にとってのそれは、とても勇気の入る行為。

 

なかなか勇気が出ないままに、長い間、見つめてみましたが、

先程から全く動く気配のないその姿に、意を決し、

恐る恐る近づいて、静かに、箒を近付けたその時でした。

 

ミ゛ーン!!

 

息絶えていたはずのセミが、突然に甦り、

凄い声を上げたかと思えば、力強く飛び立って行ったのです。

 

甦りの瞬間のその鳴き声は、

夏の音として私が楽しんでいる声ではありません。

ミに濁点が付いた、凄まじい鳴き声だったのです。

 

あまりの驚きに、思わず、セミと一緒に叫び声を上げた私。

 

凄まじいセミの鳴き声と、

私の恐怖の叫び声は、見事にハーモニーを奏で、

静かなこの場所に、響き渡ったのでした。

 

これは、セミ事件と名付けた、ある夏の恐ろしい出来事。

 

セミは、死んだふりをするらしい。

 

こんな言葉を見つけたのは、

あれから、どれくらいが経った頃だったでしょうか。

 

見つけた言葉に、あの夏のセミは、

死んだふりをしていただけなのだと思っていました。

 

死んだふりをしたセミに、驚かされたセミ事件。

 

あの夏の出来事を、ずっと、そんなふうに考えていましたが、

それについてを、詳しく調べてみると、

死んだふりをしているのではなく、

本当に死にかけているのだということが分かりました。

 

人間が近づくと飛び去るのは、

最後の力を振り絞って逃げているのだそうです。

 

あの夏の私は、気遣いのつもりでセミに近付きましたが、

あのまま、驚かせないように、

そっとしておいた方が、お互いのためだったのかも知れないなと、

ベランダから飛び立ったセミの姿を、思い出しました。