拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

彼女 8

人は、死んだら何処に行くのだろう。

答えの出ない答えを必死で探すようになったのは、

彼が亡くなってからのことだった。

 

「ねぇ、人は死んだらどこに行くのかな。私ね、本当のことを知りたいの。」

 

彼女と一緒に、チョコレートを食べたあの日から、

どのくらいが経った頃だっただろう。

それまでの彼女との不思議なやり取りを振り返ってみると、

彼女なら、本当のことを知っているように思えてならなかった。

だから、あの日の私は、彼女にこんなことを聞いてみたんだ。

人は、死んだら、何処へ行くのかと。

 

「あなたは、どんなところにいて欲しいの?

そこでどう過ごしていてくれたら、あなたは嬉しい?」

 

「そうじゃなくて、私は、本当のことが知りたいの。想像じゃなくて、真実。」

 

「えぇ、そうよね。

だからまずは、どんな場所にいてくれたら、

どう過ごしていてくれたらあなたは嬉しいのか、聞かせて頂戴?」

 

「彼に今、いて欲しい場所?」

 

彼にいて欲しい場所。

例えば、この世界では見たこともないような、可愛らしい花が咲く、

暖かな場所だったら良いな。

暑さに弱くて、寒がりだった彼には、過ごしやすい場所にいて欲しい。

そこには、彼を優しく包んでくれるような穏やかな風が吹いて、

どんな場所から見ても、毎日、綺麗な空が広がっていたらいいな。

 

そうして、夜になると、すぐ側に大きな月と星が見えるの。

星が好きだった彼なら、

きっと飽きもせずに、次の朝が来るまで、星を眺めるんだろうな。

 

夜にも、色があったら素敵だ。

そう。深い青色の夜がいい。

深い青色の夜空に輝く宝石みたいな星はきっと、

こちら側の世界の季節が巡ることを知らせてくれるのだ。

 

春、夏、秋、冬。

星の形を眺めながら、季節の移り変わりを楽しんでいる彼を思い浮かべてみる。

楽しそうに星を見上げる彼に、1番好きな季節の星は?って、

もしも、こんな質問をすることが出来たのなら、

きっと彼は、笑ってこう答えるのだろう。

選べないよ。俺は全部好きだよって。

 

そこにある夜を初めて見た日の彼は、どんな顔をして、笑ったのだろう。

きっと何度も、届きそうで届かない星たちに手を伸ばした彼の胸の中は、

ただ、幸せで、穏やかな気持ちで満たされていたに違いない。

 

思いつくままに、彼が今いる世界についてを話す間、

彼女は本当に楽しそうに話を聞いてくれた。

頷いたり、時々、素敵ね!って声を上げたり。

彼女がとても楽しそうに聞いてくれるから、私も、つい楽しくなる。

 

「それでね、そこでは、誰もが自分のやりたいことが出来るの。

ただ、好きなことだけを好きなだけ楽しめるのよ。

彼は、今、どんなことをしているのだろう。

楽しいことに、たくさん出会えているといいな。毎日、笑っていて欲しい。」

 

思いつくままに言葉にする私の声を、

とても楽しそうに聞いてくれていた彼女は、大きく頷くと、

「それで良いのよ。」

そう言って微笑んだ。

 

「亡くなった人が、本当は、何処にいるかだなんて、

そんな答えを必死に探しても、見つかるわけないじゃない?

だって、この世界に生きている人は、誰も死んだことなんてないのよ。

だからね、自分で答えを探すの。

そこに正しいも間違えもないのよ。

あなたは、あなたが思い描く向こう側の世界を、胸の中に持っていればいいの。

それは、亡くなった人を幸せにすることにも、

あなたのことを幸せにすることにも、繋がるのよ。

真実なんて、この世界にはないの。

・・・でもね、これだけは、あなたに約束するわ。

人は、死んでも、消えてしまうわけじゃない。ちゃんと存在しているのよ。

だから、あなたが大切な人に、毎日、笑っていて欲しいと望むように、

向こう側からも同じことを望まれているのよ。

あなたは、この世界で、あなたが生きたい道を生きなさい。」

 

結局そこに、私が求める真実は、何もなかったけれど、

この日の彼女の言葉に、素直に頷くことが出来たのはきっと、

約束をしてくれたからなのだと思う。

私が本当に求めていたのは、その言葉だったのかも知れない。

 

人は、死んでも、消えてしまうわけじゃない。