人は、死んだら何処に行くのだろう。
答えの出ない答えを必死で探すようになったのは、
彼が亡くなってからのことだった。
「ねぇ、人は死んだらどこに行くのかな。私ね、本当のことを知りたいの。」
彼女と一緒に、チョコレートを食べたあの日から、
どのくらいが経った頃だっただろう。
それまでの彼女との不思議なやり取りを振り返ってみると、
彼女なら、本当のことを知っているように思えてならなかった。
だから、あの日の私は、彼女にこんなことを聞いてみたんだ。
人は、死んだら、何処へ行くのかと。
「あなたは、どんなところにいて欲しいの?
そこでどう過ごしていてくれたら、あなたは嬉しい?」
「そうじゃなくて、私は、本当のことが知りたいの。想像じゃなくて、真実。」
「えぇ、そうよね。
だからまずは、どんな場所にいてくれたら、
どう過ごしていてくれたらあなたは嬉しいのか、聞かせて頂戴?」
「彼に今、いて欲しい場所?」
彼にいて欲しい場所。
例えば、この世界では見たこともないような、可愛らしい花が咲く、
暖かな場所だったら良いな。
暑さに弱くて、寒がりだった彼には、過ごしやすい場所にいて欲しい。
そこには、彼を優しく包んでくれるような穏やかな風が吹いて、
どんな場所から見ても、毎日、綺麗な空が広がっていたらいいな。
そうして、夜になると、すぐ側に大きな月と星が見えるの。
星が好きだった彼なら、
きっと飽きもせずに、次の朝が来るまで、星を眺めるんだろうな。
夜にも、色があったら素敵だ。
そう。深い青色の夜がいい。
深い青色の夜空に輝く宝石みたいな星はきっと、
こちら側の世界の季節が巡ることを知らせてくれるのだ。
春、夏、秋、冬。
星の形を眺めながら、季節の移り変わりを楽しんでいる彼を思い浮かべてみる。
楽しそうに星を見上げる彼に、1番好きな季節の星は?って、
もしも、こんな質問をすることが出来たのなら、
きっと彼は、笑ってこう答えるのだろう。
選べないよ。俺は全部好きだよって。
そこにある夜を初めて見た日の彼は、どんな顔をして、笑ったのだろう。
きっと何度も、届きそうで届かない星たちに手を伸ばした彼の胸の中は、
ただ、幸せで、穏やかな気持ちで満たされていたに違いない。
思いつくままに、彼が今いる世界についてを話す間、
彼女は本当に楽しそうに話を聞いてくれた。
頷いたり、時々、素敵ね!って声を上げたり。
彼女がとても楽しそうに聞いてくれるから、私も、つい楽しくなる。
「それでね、そこでは、誰もが自分のやりたいことが出来るの。
ただ、好きなことだけを好きなだけ楽しめるのよ。
彼は、今、どんなことをしているのだろう。
楽しいことに、たくさん出会えているといいな。毎日、笑っていて欲しい。」
思いつくままに言葉にする私の声を、
とても楽しそうに聞いてくれていた彼女は、大きく頷くと、
「それで良いのよ。」
そう言って微笑んだ。
「亡くなった人が、本当は、何処にいるかだなんて、
そんな答えを必死に探しても、見つかるわけないじゃない?
だって、この世界に生きている人は、誰も死んだことなんてないのよ。
だからね、自分で答えを探すの。
そこに正しいも間違えもないのよ。
あなたは、あなたが思い描く向こう側の世界を、胸の中に持っていればいいの。
それは、亡くなった人を幸せにすることにも、
あなたのことを幸せにすることにも、繋がるのよ。
真実なんて、この世界にはないの。
・・・でもね、これだけは、あなたに約束するわ。
人は、死んでも、消えてしまうわけじゃない。ちゃんと存在しているのよ。
だから、あなたが大切な人に、毎日、笑っていて欲しいと望むように、
向こう側からも同じことを望まれているのよ。
あなたは、この世界で、あなたが生きたい道を生きなさい。」
結局そこに、私が求める真実は、何もなかったけれど、
この日の彼女の言葉に、素直に頷くことが出来たのはきっと、
約束をしてくれたからなのだと思う。
私が本当に求めていたのは、その言葉だったのかも知れない。
人は、死んでも、消えてしまうわけじゃない。