あなたへ
あなたからのメッセージは、もう二度と、
この携帯電話に届くことはないのだと知りながらも、
携帯電話の画面を見つめたまま、
あなたからのメッセージを待っていました。
真っ暗な画面を見つめたまま、暫くの間、動けずに、
このまま、あの頃の時間に戻ってくれたらと強く願った私は、
やがて、静かに、記憶の中に吸い込まれていきました。
今から帰るよ
あなたからのこんなメッセージが届くのは、
仕事から帰宅した私が、晩御飯の支度に取り掛かる頃でした。
気を付けて帰って来てね
いつも通りのメッセージを返し終わると、
私がしていたのは、晩御飯の支度の他に、あなたのコーヒーを淹れる準備。
同じようなメッセージのやり取りの方が多かったけれど、
これからあなたが帰って来ることが分かったことも、
あなたへメッセージを返すことが出来たことも、
とても幸せな時間でした。
鮮明に蘇ったあの頃の記憶を見つめながら、改めて、
当たり前の毎日の中にあった小さな幸せを、
もう一度、しっかりと胸の中に刻み直しました。
小さくため息を吐き出すと、
携帯電話のロックを解除して、メッセージ画面を開いてみたけれど、
そこに、あなたのアカウントを見つけることが出来ないままに、
小さな声で呟いてみました。
元気ですか?
どんなに待ってみても、
あなたからのメッセージは届かないままだったけれど、
きっと何処かで笑っているあなたへ、
この小さな声が、届きますように。