拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

トレジャーロード

あなたへ

 

俺ね、前から憧れていたバイクがあるんだ

それをさ、

自分で組み立てて乗りたいなって思うんだけれど、どう思う?

 

あの子から、こんな相談をされたのは、夏休みが始まる前の頃のことでした。

自分でバイクを組み立てるだなんてと、あの時の私は、

とても驚いてしまいましたが、

迷うことなく、あの子の背中を押しました。

 

やりたいことは、全部やりなさい。

これは、あの子を育てる上で、

私たちがずっと、大切にしてきたことでもありましたね。

 

あれから、少しずつ、バイクのパーツを集めてきたあの子。

ひとつのパーツだけを見ても、私には、ただの鉄の塊にしか見えませんが、

あの子は、新しいパーツが揃う度に、

どんなところに使うものであるのかを教えてくれました。

 

まだ足りないパーツがたくさんあるようですが、

随分と、たくさんのものが集まりました。

1台のバイクが仕上がるまでには、随分と様々なものが必要なのだと、

興味深くあの子の話に耳を傾けながら、初めて見るパーツを眺めていた私ですが、

近頃、ちょっとだけ、困ったことがあります。

 

集めたパーツたちが、あの子の部屋に入り切れず、

廊下に侵入してきているのです。

どんどん新しいパーツが届き、そして、どんどん廊下が狭くなるのです。

 

正直な気持ちを言わせて貰えば、ちょっと・・・

いえ、本当は、とても嫌ですよ。

 

あっ、それも廊下に置いちゃう感じ?

 

新しく届いたパーツを、嬉しそうに眺めるあの子に声を掛けてみると、

 

そうだね

今、うちの廊下は、宝物の山だよね などと言いながら、

本当に嬉しそうに、笑っています。

 

そう。

あまりの汚さに・・・

いえ、宝物ばかりが溢れた状態に、私は、忘れかけていました。

今、あの子は自分の夢を叶えている途中なのです。

 

これは、

やりたいことは全部やりなさいと、

あの日の私の声が、真っ直ぐにあの子の胸へと届いた証拠ではありませんか。

 

我が家の廊下を狭めているのは、ガラクタなんかではありません。

あの子の言う通り、大切な宝物たちですよ。

ならば、我が家の廊下の呼び方を変えてみます。

 

トレジャーロード

 

さて、どうでしょうか。

ここはもう、廊下などではありません。

あの子の夢を叶えるための宝物が、たくさん詰まった道なのです。

 

昨日は、更に2つのパーツが届きました。

トレジャーロードには、新たな宝物が加わり、

また少し、廊下の面積を狭めながら、

あの子の夢へ、また一歩、近付いたのです。

 

ここにあるパーツたちが組み上がった時、

どんな素敵なバイクが完成するのでしょうか。

あの子は、どんなに嬉しい気持ちで、そのバイクを眺めるのだろう。

 

その日が来ることを楽しみに、

今は、ほんの少し通り難いトレジャーロードを、

気を付けて、歩きたいと思います。