拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

得体の知れない音

あなたへ

 

夜中にさ、

ずっと虫の鳴き声みたいなのが聞こえてて、眠れなかったよ

 

これは、数日前のあの子の言葉です。

 

私には、全くそんな音は聞こえませんでしたが、

あの子の部屋のすぐ近くで、その音は鳴ったり止んだりと繰り返し、

その音が気になって、なかなか眠ることが出来なかったようでした。

 

何処かに虫がいるのかな

 

こんな話をしている傍から、あの子の言う音が聞こえました。

ほら、この音だよと、こんなあの子の言葉に耳を澄ませると、

ピッピッピッまたは、チッチッチッとも聞こえるようなその音は、

玄関付近から聞こえてきました。

 

玄関を入ってすぐにあの子の部屋が、そして、

廊下を進んで一番奥に、家族の部屋、その隣に私の部屋があります。

玄関から離れた私の部屋までは、その音が届かなかったようです。

 

音の正体を突き止めるべく、玄関を捜索してみましたが、

決して広い玄関ではないにも関わらず、音の正体を見つけることは出来ませんでした。

 

虫の鳴き声とも、鳥の鳴き声とも取れるような、

或いは、その両方とも違うような、そんな音にも聞こえましたが、

それは、私たちが近付くと、すぐに鳴り止みました。

 

鳴っては鳴り止む。

その日1日を通して、その音は何度も聞こえましたが、

その原因が分からないままに、その日は夜を迎えました。

その夜も、やはり、あの子の部屋には音が聞こえていたそうですが、

出来るだけ、眠ることだけに意識を集中したことで、

その晩のあの子は眠ることが出来たようです。

 

そうして、翌日の日中も、同じように、

玄関付近から、時々、音が聞こえました。

 

ずっと、同じ場所から聞こえていたその音ですが、やがて、変化が現れました。

まるで、玄関から部屋の中へ、その音の主が侵入してきたかのように、

家族の部屋付近で音が聞こえ始め、

昨夜になると、なんと、私の部屋の中から聞こえたのです。

 

音の大きさから考えると、もしもそれが虫であるのなら、

そこそこの大きさであることが推測出来ました。

 

嫌ですよ。

夜中に、得体の知れない生き物との遭遇など、私には耐えられません。

 

あの子が寝てしまう前に見つけなければならないと、

部屋の中を大捜索してみましたが、

やはり、音の正体を見つけることは出来ないままに、眠る時間になってしまいました。

 

夜中に何かが現れるのではないかと、そんな不安もありましたが、

私が布団に入る頃には、音は鳴り止み、何事もなく、朝を迎えることが出来ました。

 

ここ数日聞こえていたあの音も、今はもう聞こえません。

得体の知れない音の正体を、結局、突き止めることが出来ないままに、

我が家では、静けさを取り戻しました。

 

得体の知れない侵入者は、この家から出て行ったのでしょうか。

 

あの鳴き声のような音の主は、生き物だったのか、

或いは、何か、別な原因があったのか、結局は分からないままに、

なんだかとても不思議だったなと昨夜までのことを振り返りました。

 

ねぇ、あなた。

あれは、何だったのでしょうか。