拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あの年の手帳

あなたへ

 

突然に、あの年の手帳を開くことが出来たのは、

何故だったのでしょうか。

いつでも、その時は突然にやって来るような気がします。

 

あの年。

それは、あなたが此処からいなくなってしまった、2014年の手帳です。

 

あの年は、家族3人でのスノーボードの予定から始まりました。

そして、実家への挨拶やショッピング。

年の初めから、楽しいことが盛り沢山だったあの年は、

我が家にとって、大きな節目でもある年でした。

 

あの子の小学校の卒業式、そして、中学校への入学式。

 

あの子のこれからの成長を思い描いてみれば、

家族3人で、ゆっくりとお出掛け出来る機会は、

もう、あまり残ってはいないように思えて、

あの年のゴールデンウィークには、たくさんの思い出を作ることにしましたね。

 

中学生になったあの子の活躍を見る機会があったのは、

ゴールデンウィークから間も無くに開催された体育祭のことでした。

あれは、あなたにとって、学校で活躍するあの子の姿を見る最後の機会でした。

 

あどけなさを残したあの日のあの子の姿、

あなたは、今でも覚えているでしょうか。

 

手帳のページを巡りながら、

やがて、あなたが入院したあの日へと辿り着きました。

 

あなたが早く元気になりますようにと、そう記した日から、

ずっと、真っ白なページが続きました。

 

何も書いていなくても、あの頃のことは、よく覚えています。

たくさん泣いたけれど、それだけじゃなかった。

あなたと笑った記憶も、ちゃんとある。

 

一般病棟で、家族3人で過ごした時間は、今でも大切な宝物。

あの子と私の顔を見つけて、

嬉しそうな顔を見せてくれたあなたのこと、今でもよく覚えています。

 

病室での他愛ないお喋り。

家族3人で、院内のコンビニエンスストアへ買い物に行った時間は、

私たちのささやかなお出掛けの時間でした。

 

私と2人きりの時に見せてくれたあなたの顔も、言葉も、

その手の温もりも、全部、覚えてる。

 

また明日ね

 

あの子と私を見送ってくれたあなたの最後の笑顔も、ちゃんと覚えているよ。

 

もう二度と、その瞳に私たちが映ることがないままに、

あなたは、残された時間、私たちに、

ただ、その温もりだけを与え続けてくれました。

 

そうして、あなたは、

最期に、とても優しい顔を見せてくれたの。

 

真っ白なページに残るのは、あの頃の鮮明な記憶。

 

更にゆっくりと、ページを巡ってみると、

所々、文字が記してあったのは、夢の中で、あなたと逢えた日のことでした。

 

夢の中のあなたが、どんなあなただったのか。

そこにいるあなたの言葉や感じた温もり。

 

とても苦しい日々の中、これだけは絶対に忘れたくないと、

そう思いながら綴った文字たちでした。

 

頑張りたくなどないのに、

頑張り続けるしかなかったあの頃の私の文字と空白を指で辿りながら、

やがて、2014年、最後の日へと辿り着きました。

 

あの年の最後に、私が綴った文字は、

あの夏にあなたを置いたまま、私はこんなに遠くまで歩んで来てしまったのだと、

こんな想いでした。

 

前へなど歩みたくない

ずっと、あの夏の中にいたい

 

こんな想いを抱えたままで、

2014年、最後の日は、皆と同じように、時間だけが過ぎていきました。

 

頑張ったね

本当に頑張ったね

偉かったよ

 

ズキズキと痛む胸の奥を押さえながら、

今の私から、あの年の私への想いを言葉にしてみると、

自然と出てきた最後の言葉は、

ありがとう という言葉でした。

 

よく頑張ったね

ありがとう

 

あの頃を振り返りながら、そこにいる自分に対して、

ありがとうと、こんな気持ちを持つことが出来たのは、思えば、初めてのことでした。

 

辛い、苦しい、悲しい。

あなたに逢いたい。

胸の中に抱えたこんな想いを形にする術さえ持てないままに、

ただ、ギュッと両手を握り締めて、

何度転んでも諦めずに、前を探し続けてくれた私がいてくれたから、

今の私が此処まで辿り着くことが出来たのだと思いました。

 

突然にやって来るその時というのは、

向き合う準備が整い、そして、

大きく成長出来る準備が整った時であるのかも知れません。

 

涙を拭いながら、大きく息を吐き出して、

あの年の手帳を閉じた私の中に見つけたのは、

自分を誇らしくも思える気持ち。

 

ねぇ、あなた。

胸の奥は、酷く痛むままだけれど、

此処から先も、私は、きっと大丈夫。

 

私を支え続けてくれたあの子や、

周りの人達への感謝の気持ちを忘れずに、

私は此処から先へ自信を持って歩んでいくよ。

 

 

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