拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

実は会社を辞めました 2

あなたへ

 

昨日は、話の途中でごめんなさい。

この夏から呼吸が出来なくなってしまう現象が起きてしまったところまでを、

お話しましたね。

 

あの頃は、

なんとかしなければならないと、最終的に見つけたやり方は、歌を歌うことでした。

人目も憚らず、大きな口を開けて、大声で歌うことで、

なんとか意識を保ったまま、会社へと辿り着けるようになりました。

もう、人目を気にする余裕さえありませんでした。

 

出勤の日の朝になると、呼吸が出来なくなるようになってから、

どれくらいが経った頃だったでしょうか。

 

秋の風を感じる頃になって、

あの、不思議な気持ちは突然に私の中に浮かんできたのです。

 

私にとって、この職場での毎日が、運を貯めるような時間であったとしたのなら、

もう、これ以上、運を貯めておけるスペースなど残っていないくらい十分に、

私は運を貯めたのではないかと、ふと、こんなことを考えました。

これ以上、此処にいても無意味であると。

 

今、振り返ってみても、とても不思議ですが、あの時間がやって来たのは、

そこから僅か数日が経った頃のことでした。

 

あの日は、何故、あんな話になったのか、よく分からないけれど、

あの子と世間話をしながら、話してしまったのです。

職場に関する話を。

 

私の話を黙って聞いてくれていたあの子は、言いました。

 

お母さんの有給って、どのくらいあるの?

有給を全部使って休みなよ

人生の夏休みだと思えばいいよ

それでそのまま、会社辞めちゃいなよ

今日で辞めますって電話で済ませればいいじゃん

 

あの子のこの言葉には、かなりの衝撃を受けました。

驚きのあまり、言葉を失っている間に、更にあの子の言葉は続いていきました。

 

やりたいことのために、やりたくないことをするのは良いと思うけれど、

やりたいことのために、嫌なことをするのは違うと思うよ

 

仕事の時間が終わったのに、嫌だったなって考えちゃう時間とか勿体ないじゃん

その時間もやりたいことに使った方が良いよ

 

お金なんて、その会社じゃなくたって稼げるじゃん

履歴書も面接もなしで働ける場所だって、たくさんあるんだよ

でも、それは不安定だからって言うんでしょう?

それって、俺がいるからだよね?

 

親はきっと皆、違うって言いながら、子供のために無理をするんだよ

自覚してないだけ

 

でも、子供の俺からしたら、そんな無理はしないで欲しいって思う

俺は、お母さんに人生を楽しんで欲しい

この人生は、一回しか生きられないんだよ

嫌なことをしている暇があるほど人生長くはないと思うよ

 

今の会社、辞めちゃいなよ

 

更なる衝撃的な発想に、言葉を失ってしまったのも束の間に、

あの子の言葉ひとつひとつは、

静かに、私の胸の奥の奥へと入り込み、

これまでの苦しさや辛さを全て包み込んでくれました。

そうして、それら全ての言葉を反芻した私の背中を、力強く押してくれたのでした。

 

少し考えてみるね

ありがとう

 

あの日は、こんな言葉を返したけれど、

もう、あの時には、私の気持ちは決まっていたのだと思います。

あの会社を辞めよう と。

 

まさか、突然に有給消化をして、そのまま辞めるようなやり方はしませんでしたが、

無事に退職の手続きをすることが出来ました。

 

職場の中で、虐めに遭っていたの?

もしもこんな質問をされたとしたのなら、それは違います。

 

寧ろ、その逆とも言えるのかも知れません。

ある種の気遣いのようなものも存在し、

一見して、大切に扱われているかのように感じられる場面すらありました。

私 対 その他、というような敵対もありません。

 

但し、一切の被害がなかったのかと問われたとしたのなら、

それもまた少し違います。

 

例えば、針で突くまではしないけれど、爪楊枝の先で突くような、

鋭い痛みを与えるようなことはしないけれど、

鈍い痛みを与え続けるようなやり方で、

言葉には出来ないモヤモヤとした感情にさせられるような出来事は、

頻繁に起こっていました。

 

ですがそれは、私に限ったことではなく、そこにいる皆の身に、

少しずつ、そのようなことが起こり続けているような状態でした。

 

辻褄が合っていないようにも感じるかも知れませんが、

それこそが、複雑に絡み合った糸なのです。

 

もしも、どうしてもその全てを理解したいと言うのなら、

あの会社、紹介しましょうか。

と言ったところです。

 

自分の身に起こった出来事が、全く気にならなかったと言えば嘘になりますし、

時期によっては、自分の身に連続で起こり続けたあの鈍い痛みに耐え続ける時間は、

苦痛という言葉では片付けることの出来ないものでもありました。

ですが、あの職場を通過点と見ていた私にとって、

それらについては、大きな問題ではなかったとも考えています。

 

最終的に、私が耐えることが出来なくなってしまったのは、

この世の全ての負のオーラを纏ったような、あの空気感だったのだと思います。

 

それは例えば、同じ部屋に誰がいるから、とか、

誰がいないから、と言った限定的なものではなく、

そこに蓄積され続けてきた目には見えない重苦しく淀んだ何かです。

こんな経験は初めてのことでしたが、

場所に溜まる見えないものというのは、確かに存在するのかも知れません。

 

こうして、改めてあの頃のことを振り返ってみると、

酷く苦しんだ時間であったけれど、

とても苦しかったからこそ、今の私が歩む不安定さに対して、

恐怖に感じることもなければ、

あの会社を去ったことに対して、僅かな後悔もありません。

 

私の中には、ただただ、大切にしたい未来だけが存在しています。

 

やはり、あの道が私にとっての最短ルートであり、

運を貯めるという視点から見つめ直してみても、

私は、たくさんの運を貯めて来ることが出来たとも言えるのかも知れません。

 

今、此処にあるのは、やらなければならないことと、やりたいこと。

嫌なことは、何もありません。

 

あの子の言う通り、

嫌なことをしている暇があるほど、人生長くはないのかも知れません。

あの会社を去ると決めた頃から、そして、今現在も、

新たに挑戦したいことや学びたいことが、たくさん見えてきました。

 

それら全てを成し遂げるには、どれくらいの時間が掛かるのだろうかと、

首を傾げながらも、なんだか、笑ってしまうのです。

楽しいなって。

 

やりたいことを始めたりすると、

必ず否定的な言葉を投げる人がいるけれど、それって要は妬みなのよ

 

こんな言葉を見つけたのは、先日のことでした。

 

あの時、何の躊躇もなく、力強く私の背中を押してくれたあの子は、

今を存分に楽しんで生きている証拠なのかも知れないと、

ふと、こんな視点を見つけました。

良かったなって。

 

あの子がくれたこの道の先で、

いつか私も誰かの背中を力強く押すことが出来たらいいな。

これは、私の小さな目標のひとつにもなりました。

あの子には、とても感謝しています。

 

今回は、とても長い手紙になってしまいましたが、

ここまで読んでくれてありがとう。

 

あなたへの手紙を書きながら、あの頃のことと向き合うことで、

漸く、私の中での整理をつけ、辛かった様々な出来事を過去のものとして、

区切りをつけることが出来たように思います。

 

一層、晴れやかな気持ちで、

明日からの生活も、楽しんでいきたいと思います。