あなたへ
今年もまた、楽しみにしていた桜の季節がやって来ました。
あなたと一緒に歩きたかった土手の上は今、
淡く優しい春の色に染まっています。
今日の私は、土手の上をゆっくりと散歩しながら、
3年前、初めてこの場所へ訪れた日のことを思い出していました。
手を繋いで、ゆっくりと桜の景色を楽しむ老夫婦の姿がとても素敵で、
少しだけ、涙を零してしまったあの日、
私は無意識に、何度も手を握り締めては、
あなたのその手の温もりを探していたのでした。
きっと、此処から先へ、どんなに歩んで行こうとも、
どの春にも、痛みを伴う苦しさと向き合い続けなければならないのだと、
あの春は、私にとって、密かに覚悟を決めた春でもありました。
あれから3年後、此処にいる今の私は、
あの頃とは全く別な世界へ飛び出して、
あの頃の私が知らなかった笑顔を知り、
あの頃の私が知らなかった笑い声を知りました。
今、此処にあるのは、
泣きながら、あなたのその手を離したあの夏から、
7年と8か月先の私に見える景色。
自分だけのペースをみつけて、
ゆっくり、ゆっくりと歩んできた私だけれど、
此処に、とても素敵な景色を見つけることが出来たよ。
ほんの少しだけ、誇らしい気持ちで空を見上げた私の小さな声は、
あなたのところまで届いたでしょうか。
あなたと一緒に歩きたかった桜の木が並ぶ土手の上から見た今年の景色は、
とても穏やかで、優しい気持ちのする春の色でした。
空を見上げた私の胸の奥は、痛いままなのに、
新しく知った穏やかさは、優しくふわりと私を包み込んで。
こんなに温かで不思議な気持ちもあるんだね。