あなたへ
随分、前髪が伸びてしまっていたことに気が付いて、
自分で前髪を切りながら、
前にもこんなことがあったなと考えていたのは先日のことでした。
あれは、いつの頃だっただろう。
あなたにただ逢いたくて、
空を見上げては、
そして、
何処かにあなたの手の温もりを探しては、
たくさん泣いて。
晴れない気分で日々を過ごしながら、
漸く少しだけ元気を取り戻した頃になって、
前髪が目に掛かっていることに気が付いたのです。
あの時の私も、
今の私も、
存分に泣いたところで、
ふと、前髪が目に掛かっていることに気が付いて、
ただ前髪を切ることだけに集中した時間がありました。
前髪と、泣く時間。
それは、
私にとって、深い関係があるのかも知れません。
さぁ、上手に切れたよ
準備はいい?
先日の私が鏡に向かって無意識に、
こう問いかけたのは、何故だったのだろう。
あの頃のあなたが、ちゃんと前が見えるようにと、
伸びた私の前髪を整えてくれていたのは、
そういうことだったのでしょうか。
あなたはもう、此処にはいないけれど、
あなたみたいに上手に前髪を切れるようになった私は、
既に、前に歩むための武器を手に入れることが出来ていたと、
こんな見方も出来るのでしょう。
スッキリと整えた前髪はもう、視界を遮ることはありません。
たくさん泣いてから、
伸びた前髪に気が付いて、切り揃える時は、
私にとって、
また新しい一歩を踏み出す時なのかも知れませんね。