拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

あなたと過ごした16年間に詰まった時間

あなたへ

 

さぁ、おじいさん、食事の時間ですよ

 

ふざけてこんなことを言いながら、あなたの口へヨーグルトを運んだのは、

私たちが出会ってから、どのくらいが経った頃だったでしょうか。

 

あの時のあなたは、

あぁ、いつもすまないねぇなんて言いながら、

弱々しく口を開けて、ヨーグルトを食べたのよ。

 

突然にあの日のことを思い出して、

堪え切れずに笑ってしまったのは、先日の私です。

 

あれはまだ、結婚する前の私たち。

コンビニエンスストアで食べたいものを買い込んで、

ドライブに出掛けたあの日のことを、あなたは覚えていますか。

 

目的地に着いて、私の隣に寝転がっていたあなたの姿も、

あの日、あなたと一緒に食べたのが、

バナナ味のヨーグルトであったことも、私は今でも、よく覚えています。

 

突然に思いついた老夫婦ごっこに付き合ってくれたあの時のあなたの姿が、

なんだか本物のおじいさんに見えてしまって、

とても可笑しかったのが、あの日の一番の思い出。

 

今思えば、とても不思議です。

あの時の私は何故突然に、老夫婦ごっこを始めたのだろう。

 

あの頃の私にとっては、ただの思いつきの遊びであったはずなのに、

こうして改めて、あの頃の記憶を蘇らせてみると、なんだか不思議でなりません。

 

その人の運命を変えることは、誰にも出来ないんだよ

これは、いつかのあなたの言葉。

そして、

今の自分が歩む人生は、自分で選んで生まれてきたのだと、

こんな話を聞かせてくれたのは、かつての先輩でした。

 

もしも、そうであるのなら、

私たちはきっと初めから、

16年間しかこの世界で共に過ごすことが出来ないと、決まっていたのでしょう。

でも、その代わりに、

その時間の中に、私の一生分のあなたとの時間が詰め込まれていたのではないかと、

こんな視点で、あなたと過ごした時間を見つめてみました。

 

思えば、あの時だってそう。

 

手でも繋ぎますか?って、

あなたが突然にその手を差し出してくれたあの時間は、

本当なら、あの子が巣立って、2人きりになってから、

あなたと過ごしたかった時間でした。

 

買い物でも何処でも一緒に行こうね

 

結婚当初にしてくれたこんな約束を、

あなたはずっと守っていてくれたから、

何処へ出掛けても、寂しくなっちゃうくらいに、

私の行動範囲内全てに、あなたと過ごした時間が散りばめられています。

 

あの頃の私たちは、無意識に、

出来るだけたくさんの2人の時間を、

そこに詰め込んでいたのかも知れません。

 

あなたのその手を離して、

あなたが此処にいない未来を生きる私が、

寂しだけでいっぱいにならないように。

そして、

あの時も、あの時も、全部良かった。

あなたがそう思いながら、

安心してその最期を受け入れることが出来るように。

 

此処から先へ歩んで行けば、私はまた、

きっと何度も、

もしもあの夏の運命が違っていたらと、考えてしまうのでしょう。

 

それでも、初めて見つけたこの新しい視点は、

これからの私を助けてくれるのかも知れません。

きっと、今の分は、あの中にあるのだと。

 

ずっとずっと先の未来。

もしも私がこの世界で、あの頃に描いた年齢を迎えることが出来たのなら、

きっとまた、思い出して笑ってしまうのでしょう。

 

あの日、あなたと一緒に食べたバナナ味のヨーグルトの味と、

あの日のあなたが見せてくれたおじいちゃんみたいな姿を。

 

きっとね、不意に聞こえるのよ。

 

いつもすまないねぇって、

ちょっとだけわざとらしく弱々しいあなたの声が。

 

 

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