拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

暗闇の車内の中で

あなたへ

 

あの子の車が車上荒らしの被害に遭い、

私に戻ってきたのは、専属運転手の日々。

主に、私の出番となるのは、あの子のアルバイト先への送迎です。

 

あの子を乗せてアルバイト先へ向かう時間は、楽しくお喋りを。

そうして、

あの子を降ろした帰り道では、気持ち良く歌を歌いながら。

 

慌ただしく過ぎ行く毎日の中、

こんな感じで、あの子の送迎の時間を楽しんでいた私が、

ふと、要らぬことを考えてしまったのは、冗談のつもりだったのです。

 

それは、あの子をお迎えに向かっていた時のことでした。

 

あの子のアルバイト先へ行くには、

車通りの少ない山道を通らなければなりません。

あの子のアルバイトの終わりの時間帯は、深夜近くであるために、

お迎えに向かうタイミングでは、私の車以外、誰も通ってはいないのです。

 

お化けが出ちゃうかもね

 

暗闇の中、冗談のつもりで、ふと、こんなことを考えて、

怖くなってしまった私。

 

後部座席に、知らない人が乗っていたら怖いよね

 

考えなければ良いものを、そこに座る人を詳細に想像してしまった後で、

もう!やめてよね!なんて、

誰に言っているのか分からない言葉までもを呟いてしまったのは、

私が怖がり出身だからなのかも知れません。

 

あなたを見送り、安易に怯えることはなく過ごしてきた私ですが、

一度でも、要らぬ妄想をしてしまえば、

止まらなくなってしまうのは、暗闇が持つ力なのかも知れません。

 

もう!あなたしか駄目なんだからね!

 

恐怖心に負けて、

私が探しても良いのは、あなたの気配だけであることを自分に言い聞かせながら、

ふと、思い出していたのは、

いつかの私が真剣に考えたことについてでした。

 

いつかの私は、真剣に考えたことがありました。

もし出来れば、いつの日か、特別な力を持って、

あなたのその姿を見つけられる日が来たらいいなって。

 

この瞳に、そちら側のあなたの姿を映すことが出来たのなら、

きっと、とても楽しい。

 

一緒に散歩に出掛けることが出来たのなら、

2人分の素敵なものを見つけることが出来るのでしょう。

 

一緒に買い物に出掛けることが出来たのなら、

今日のお供物は何が良い?って、こんな私の声に、

あなたはきっと、今日、一番食べたいものを教えてくれるの。

 

きっとね、見えても触れられないなんて嘘よ。

だって、私には感じるもの。

あなたの温もりによく似た温かな気配を。

 

だからもしも、あなたの姿を見つけられたのなら、

存在する世界の違いに苦しさを感じることもあるかも知れないけれど、

でも、きっと、寂しくない。

だから、いつか特別な力が欲しいなって。

 

でも、

こんなことを密かに願い続けていた私に、あなたはきっと言うのよね。

 

俺のことが見えるってことは、他のものも全部見えるってことだよって。

 

それはやっぱり、ちょっとだけ怖いけれど、でも、それでもいいよ。

あなたが側にいてくれるのなら、私は1人じゃないもの。

なんて、もしも私が覚悟を決めようものなら、

あなたは、私の髪を撫でて言うのでしょう。

 

そんなこと出来なくたって、分かっているんでしょう?

いつでも側にいるよって。

 

特別な力など、何も持ち合わせてはいないけれど、

あなたを見送り、

あなたの温もりによく似た気配を見つけることが出来るようになった私。

 

あなたの姿は、いつまで経っても見つけることは出来なかったけれど、

これは、あなたを見送ってからの私が磨いた技であるのかも知れません。

 

そっか。それなら、それでも良い。

 

いつかの私は、真剣に考えながら、こんな結論を出して、

自分の中に、折り合いをつけたのでした。

 

あなたを見送り、

安易に怯えることがなくなったはずの私が暗闇の車内で見つけたのは、

既に過去となったはずの、怖がりな私だったけれど、

それでもひとつだけ、あの頃とは違うのは、

考える事柄が、いつの間にかあなたのことへとすり替わっていること。

 

そちら側にも、大切な人がいるということは、

思っていたよりもずっと、

無敵に生きていけるものなのかも知れません。

 

その姿は見えなくても、私は大丈夫。

 

いつかの私が出した結論は、きっと正しかったのだろうと、

思いもよらぬタイミングで、答え合わせが出来たように思いました。

 

 

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