拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

この世界を後にする前にあなたがくれた贈り物

あなたへ

 

例えば、新しい物事を始めた時や、

過去の時間をゆっくりと振り返った時に、

そこに思わぬことが隠されていることを知ることができる場面があります。

 

あなたを見送ってからの私は、

何度こうして、あなたからの想いや贈り物にふと気が付いて、

思わず涙を溢したでしょうか。

 

あの子が生まれる前のあなたとあなたと過ごした時間や、

あの子が生まれてから、共に成長を見守った時間を、ゆっくりと振り返りながら、

やがて蘇ったのは、

まだこのお腹の中に、あの子がいた頃のあなたの言葉でした。

 

あなたは、間も無く生まれてくるあの子に、

パパやママ、お父さんやお母さんではなく、

名前で呼ばれたいと、こんな夢を持っていましたね。

 

友達みたいで、いいなって。

 

それは、あの子が大きくなったら、友達みたいな関係を築きたいと、

こんな夢を持っていたあなたらしい望みだったと言えるのかも知れません。

 

でも、あの子が生まれ、

温かで小さなあの子を腕に抱きながら、

私たちは自然と、

発音のし易いパパ、ママという呼び名を選びましたね。

 

小さなあの子に、パパだよ、ママだよって、

こんなふうに話し掛けることに慣れるのも、然程、時間は掛からずに、

やがてそれは、私たちの当たり前の形となっていきました。

 

あなたを見送ってからの私は、

説明のつかない不思議な出来事を、これまでに、何度、経験してきたでしょうか。

 

偶然に偶然を重ねたやり方で、

それは時に、数年掛かりのプロジェクトのように、

直ぐには気付かぬよう、

巧妙に仕掛けられた必然だったりもするのでしょう。

 

それに気付いた時に、私が流す涙は、

悲しみからでも、寂しさからでもなく、

ただただ、あなたからの純粋で深い愛を感じる、温かな涙なのです。

 

思い返してみれば、

あなたの四十九日の法要の日は、

あの子が突然に、私たちを名前で呼んだ日でもありました。

 

法要の日を迎えた朝、

あの子は突然に、私たちのことを名前で呼び、

あの日を境に、あの子は私をママと呼ぶことをしなくなり、

また、あなたのこともパパと呼ぶことをしなくなりました。

 

あの日のことを、

パパ、ママと呼ぶには、自分はもう幼くはないのだと、

そんなあの子の心の成長を見せてくれた日だったのだとだけ捉えたまま、

深く考えるに至らなかったのは、

私がしっかりしなければならないのだと、自分を奮い立たせることだけで、

精一杯であったからなのだと思います。

 

四十九日の法要を間もなくに控えた頃の私は、

ただただ悲しくて、あなたをそちら側に送り出すのが嫌で堪らなくて、

このまま、時間が止まってしまえば良いとさえ考えていました。

 

でも、そんな私に待っていてくれたのは、

深い愛に溢れた温かなものでした。

 

龍という字の付く戒名をいただき、そこに込められた想いを受け取って。

 

きっとあなたは、いつでも逢いに来てくれるのだと、

その想いに、たくさん泣きました。

 

でも、本当はそれだけじゃなかったんだね。

 

大きくなった私のお腹を、愛おしそうに撫でながら、

あなたが夢見た将来の景色を思い出し、

これまで、深く考えることのなかった四十九日の法要の日の朝の出来事にもまた、

想いが詰まっていたのだということに、漸く今になって気が付くことが出来ました。

 

あなたはきっと、この世界を出発する前に、

あなたがずっと持っていたその夢を叶えて、私に遺してくれたんだね。

 

もしも、あの日のあなたの姿を見ることが出来たのなら、

あなたは、きっと最高に良い顔で笑っていたのでしょう。

 

あなたがこの世界を後にする前に、最後に感じたのは、

きっと、あなたの名前を呼んだあの子の声。

 

あなたが見たかった景色を、最後にこの世界で感じて、

最高の笑顔で、この世界を旅立って行ったのでしょう。

 

友達みたいで、いいなって。

 

そうして、

あなたは、私に託してくれたんだね。

あなたが見たかった景色も、その続きの景色も、全部。

 

こうして、あなたへの手紙を書く時には、

必要があれば、

あの子から見た私たちのことを、お父さん、お母さんと表現するけれど、

それが表現方法に過ぎないことは、

あなたと私だけが知っている文字の形。

 

此処にあるのは、

私たちを名前で呼ぶあの子の声と、

親子と呼ぶよりも、友達のようなあの子との良好な関係です。

 

あの夏からの私は、どれだけの涙を流したでしょうか。

 

これまでの私は、数えきれないほどの涙を流してきたけれど、

でも、本当は、私の瞳に映る景色は、

こんなにも愛おしい景色だったんだね。

 

新しい明日なんてもういらないと、泣きながら眠った夜も、

あなたを何処かに探して、あの子に隠れてひとりで泣いた日も、

私の側には、あなたが託してくれた贈り物が寄り添ってくれていて、

私はこんなに素敵な景色の中で、

あの夏の続きを歩むことが出来ていたんだなって、

漸く、そう気が付いて、

拭っても拭っても、温かな涙が溢れ続けるのです。

 

だからね。

上手くは言えないけれど、今、此処に流した涙を最後に、

もう、あなたを想って涙を流すのは、終わりにしたいなって思いました。

 

だって、あの夏の続きには、

こんなに素敵な時間が流れていたのだということに、

漸く気付くことが出来たのですから。

 

涙を拭いて、

あなたが見たかった景色を、ちゃんと見ておくよ。

 

あの子が私の名前を呼ぶ声も、

あなたの名前を呼ぶ声も、ちゃんと笑顔で聞いておくからね。

 

涙を拭いて、空を見上げてみます。

 

ねぇ、あなた。

 

この世界を後にする前にあなたがくれた贈り物は、

あの夏から8回目の夏が過ぎ、

秋が来て、冬の季節に、

漸く、此処に見つけたよ。

 

だから、私は大丈夫。

きっともう、泣かないよ。

 

 

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