あなたへ
空へとカメラを向けながら、ふと、思い出していたのは、
あの日のことでした。
ねぇ、あなたは気付いてた?
私ね、空の写真を撮るのが好きなんだよ
可愛らしい雲の形を見つけて、空へとカメラを向けながら、
何気なく、こんな話をしたのは、
あの子の初めての運動会の日のことでした。
それまでもずっと、日常の中の何気ない写真を撮りながら、
合間に空の写真を撮っていた私だったけれど、
言葉にしたのは、あの日が初めてのこと。
ねぇ、あの日のあなたは、
どんな言葉を返してくれたんだったかな。
あの日のあなたの言葉を思い出せないままに、
あなたを見送ってからの私が、
これまでに見つけた幾つもの不思議な雲の形を思い出していました。
あの時も、あの時も、
偶然とは思えないタイミングの良さで、不思議な雲の形を見つけたこと。
やはり、偶然なんかじゃなかったんだね。
あなたを見送ってからの私は、
たくさんの偶然に囲まれて、あなたからの想いを見つけてきたけれど、
空に見つける偶然が一番多いは、
きっと、あなたがそのやり方を選んでくれているから。
きっとあなたは、あの頃の、
他愛もない私の言葉をちゃんと忘れないでいてくれたんだね。
あなたは、記憶力がとても良かったものね。
空が好きな私と、素敵な空を見せてくれるあなた。
今、この世界には、
こんな2人だけの瞬間が存在しているのかも知れません。
それは、形を変えた、
あの夏からの続きの私たち2人だけの時間とも言えるのでしょう。