拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

遺品整理

あなたへ

 

ねぇ、あの日のあなたは、

どうしてあんなに嬉しそうに笑っていたの?

 

どんなに探してみても、その声は聞こえないままに、

それでも私には、何故だか、

あなたが喜んでいるようにも、

背中を押してくれているようにも感じてしまったよ。

 

だって、あの日のあなたは、

本当に優しい顔で私を見つめてくれたから。

 

あのね、

あなたのものを整理しようと思うんだけど、どうかな

 

こんなふうにあなたに声を掛けたのは、先日のことでした。

 

あの日の私は、押し入れの中に重なった段ボール箱を見つめながら、

整理しても良いのかも知れないと、こんな気持ちで、

あなたのものと書いた自分の文字を、そっと指で辿ったのでした。

 

此処へ越してきてから、

段ボール箱を開けて、あなたのものに触れたのは、

何度くらいあったのだろう。

 

オレンジ色のバッグを見てみたくなった日と、

あの手帳を開いた日。

 

そう何度も開けたことのない段ボール箱ですが、

何が入っているのかは、よく覚えていました。

 

引っ越しのために、

あなたのものは、随分と片付けなければなりませんでしたが、

この家へと持ってきたものは、

あの頃の私が向き合えずに、

段ボール箱へと詰め込んだものばかりです。

 

あなたが愛用していたものや、集めていたもの。思い出の品。

それから、

一般病棟へは戻れなくなったあなたのベッドに残された全てのものを、

泣きながら袋に詰め込んだものは、

殆どのものに触れることすら出来ずに、

ほぼそのままの形で段ボールへと詰め込んだのでした。

 

あの子と一緒に箱を開けて、ひとつずつを手に取ってみました。

 

処分するもの。

取っておくもの。

 

それから、

私たちが出会った日に、あなたがつけていたアクセサリーは、

あの子がね、使いたいって。

あの頃のあなたの愛用品は、

あの子のアクセサリーケースへと大切に収められました。

 

そうして、

3つの段ボール箱に、いっぱいだったあなたのものは、

1つの段ボール箱に満たない量となりました。

 

ものがなくても、記憶はなくならない。

 

いつの頃からか、私は、

こんなふうに考えるようになりました。

 

それは、今思えば、

この時を迎えるための準備のような考え方であったのかも知れません。

 

そうして、グラデーションのようにゆっくりと心の準備が整って、

やがて来るその時というのは、実は、

絶妙なタイミングで訪れるとも言えるのでしょう。

 

だって、あの子が巣立ってしまえば、

こんなふうにゆっくりと、2人で向き合う機会など、

訪れる日はきっともう、ないのだから。

 

あの日のあなたが、

どうしてあんなに嬉しそうに笑っているように見えたのか、

その明確な理由は分からないけれど、

この世界からいなくなってしまった人のものを片付けることは、

いつかは誰かがやらなければならないこと。

 

もしも私が、永遠に向き合えないままであったのなら、

いつか、私がこの世界を旅立った後のあの子が、

あの箱の中身全てと、

ひとりで向き合わなければならなかったのでしょう。

 

もしも、あの子が巣立った後で、

そのタイミングがやって来ていたのなら、

あなたのアクセサリーを、

嬉しそうに眺めるあの子の姿を見ることもなければ、

蘇ったあなたとの思い出話を、

楽しげに聞いてくれたあの子の笑顔を見ることも出来なかったのでしょう。

 

だから、きっと全部、

これで良かったのだと思っています。

 

あなたのものを整理しながら、

鮮明に蘇ったあの頃のあなたの笑顔も、声も、その手の温もりも、

もう一度、私の胸の中へと大切に仕舞いました。

 

この記憶は、なくなったりはしない。

だから、大丈夫。

 

 

www.emiblog8.com