拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

奇跡みたいな景色

あなたへ

 

部屋、決めてきたよ

 

こんなあの子の声が聞こえたのは、

まだ梅の蕾が膨らむ前の頃のことでした。

 

内見をしながら撮ってきた動画や写真を、

嬉しそうに見せてくれたあの日のあの子は、

これから住むことになるその部屋が、

どんなに素敵な場所であるのかを、

とても楽しそうに話して聞かせてくれたのでした。

 

今回、あの子の巣立ちに当たり、

必要であろうことを教えながらも、

あまり多くの口出しをせずに見守ると決めたのは、

これまでのあの子の成長を振り返りながら、

あの子なら、大丈夫だと感じたからでした。

 

巣立ちの準備は、人生の中で一度きり。

初めて私の元から離れるともなれば、

色々とやってあげたくなってしまう気持ちもありましたが、

連日、インターネットで検索をしながら、

内見までの段取りをするあの子の姿をそっと見守りました。

 

例えば、

インターネットで見た部屋の印象と、

実際に見た部屋の印象が異なることもあれば、

お気に入りの部屋を見つけることが出来ても、

その他の条件が合わない場合もあるのだと思います。

 

住む部屋を決めるために、

何度か足を運ぶことを想定していたあの子でしたが、

何故だか、トントン拍子に物事は進んで行きました。

 

内見した部屋をとても気に入ったことや、

担当してくださった方が、とても素敵な方であったこと。

 

内見から帰ったあの子が、

嬉しそうに聞かせてくれた話に頷きながら、

きっとあなたが、しっかりとあの子を守ってくれていたんだろうなって、

そんな気がしていました。

 

先日、あの子が新しく暮らすことになる部屋へ行って来ました。

 

街並みも、雰囲気も、

そこに流れる空気感も、とても素敵な場所。

 

そして、あの子が暮らすことになる部屋も、

なんだかとても落ち着ける場所でした。

 

あの子と一緒に、近所を散策しながら私が見つけたのは、

いつかのあなたが私に見せてくれた景色でした。

 

ねぇ、あなたは、覚えていますか。

あれはまだ、結婚する前の私たち。

一緒に旅行へ行った帰り道、

あなたは、素敵な景色の見える場所へと私を連れて行ってくれましたね。

俺のお気に入りの場所に連れて行ってあげるよって。

 

全く土地勘のない私は、

あの時のあなたが連れて行ってくれた場所の地名など、

全く知らずにいましたが、

あの子と一緒に散策をしながら見つけた景色に、

あの日のあなたが見せてくれた景色は、この辺りだったのだと、

初めて、地名までもを知ることが出来たのでした。

 

私と出会う前には、他県に住んでいたあなた。

あの子が暮らすことになる地の隣の県に住んでいたはずのあなたですが、

あなたはきっと、あの辺りのことも、よく知っていたんだね。

 

あの子が暮らすことになる地で見つけた思いもしなかった景色に、

とても驚いてしまった私でしたが、

更に驚いたのは、あの子の部屋から見えた夕方の景色でした。

夕日が見える方角が、この部屋と全く同じだったのです。

 

あの子と私。

これからは、遠く離れて暮らすはずなのに、

全く同じ夕日が見えるだなんて、こんな偶然、あるわけない。

なんだか驚き過ぎて、笑いさえ込み上げてきてしまいました。

 

だって、こんな偶然を作れるのは、

あなたしかいないじゃない。

 

偶然に偶然を重ねたやり方で、

いつでも奇跡みたいな景色を見せてくれるあなたって、本当に素敵。

 

あの子の巣立ちの日を思い描いては、

夜中にひとり、お布団の中で泣いていた私の瞳に、

こんなに素敵な偶然が重なった景色が映るだなんてさ。

 

あの子の巣立ちの日は、刻一刻と迫って来ましたが、

あの子は、しっかりとあなたに守られながら、

此処から巣立って行くんだね。

 

 

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