拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

ただあの子が愛おし過ぎて

あなたへ

 

ねぇ、あなた。

こんな感情があるだなんて、これまで知らなかったよ。

 

ただ、あの子が愛おし過ぎて、涙が溢れてしまうだなんてさ。

 

あの子の巣立ちの日。

あの子が乗った電車が見えなくなるまでを笑顔で見送って、

ひとり、改札口を出ると、やがて涙が零れ落ちました。

 

拭っても、拭っても、すぐに景色は歪んでいき、

温かな粒が頬を伝い続けました。

 

家に帰り、支度を整えて、お布団に入ってからも、

翌朝、目が覚めて、窓から景色を眺めていても、

何をしていても、大粒の涙が零れ落ちるのです。

 

それは、寂しい、とも、辛い、とも違う、

私が知らない涙の温度でした。

 

私が流すそれらが、

どんな気持ちに該当する涙であるのかが、

自分でもよく分からないままに、

溢れ続けてしまう涙を、ただ静かに受け入れてみれば、

やがて、私の中に明確になったのは、

ただ、あの子が愛おしいという感情でした。

 

花束を渡してくれたあの子。

 

電車の中から手を振ってくれたあの子。

 

今を感じた瞬間に、

過去へとなり行く一瞬一瞬にいたあの子が、

ただただ愛おし過ぎて、涙が止まらないのです。

 

ねぇ、あなた。

こんなふうに流れる涙があるだなんて、知らなかったよ。

私の記憶に焼きついた、

一瞬一瞬にいるあの子への愛おしさをただ感じながら、

こんなにもたくさんの涙が溢れるだなんてさ。

 

拭っても、拭っても、溢れ出てしまうこの涙はきっと、

まだ、私の胸の中へと納め切ることの出来ない愛おしさなのだと思います。

 

だからね、急に作業の手を止めて、

突然に涙を流す私を見つけても、心配しないで。

 

あなたは、そこから見守っていてね。

 

きっと、これもまた、

今しか感じることの出来ない気持ちだと思うから。

 

この、胸の中へと納まりきれずに溢れ出してしまう、あの子を想う気持ちは、

やがて、私の胸の中へとピタリと納まる形へと変わって行き、

ただ愛おしいという感情だけを残したまま、

涙を流すことも無くなっていくのでしょう。

 

だからね、今は、

ただあの子のことが愛おし過ぎて溢れ出てしまう想いを、

大切に、感じてみるよ。