拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

繋ぎ止められた命

あなたへ

 

私のこの命は、

あの子が繋ぎ止めてくれた命でもあるんだな

 

こんなことを考えていたのは、あの子の巣立ち前。

あの子と過ごした21年間を振り返っていた日々の中で、

見つけた気持ちでした。

 

あの子が生まれた日からをゆっくりと振り返りながら、

記憶の中で私が足を止めたのは、あの、春の日の出来事でした。

 

あなたを見送り、泣きながら、それでも前へと歩みながら、

あなたの分までこの世界で生きて、幸せにならなくてはいけないのだと、

そんなふうに自分を奮い立たせ続けてきたはずなのに、

突然に大きな不安に襲われて、

全てがどうでもよくなって、

ただ空を見上げていたことだけが断片的に記憶に残ったあの春の日の私は、

何かが、おかしかった日。

 

断片的な記憶しか残ってはいないあの日の私は、

恐らく、この人生の中で、

唯一、最も死に近い場所にいたのでしょう。

 

決して行ってはいけなかった境界線の前。

あの日の私は、そんな危険な場所で、空を見上げていたのかも知れません。

 

生きることを辞めたかったあの日の私が、

目の前の境界線を越えることなく、

ただ空を眺めていただけに止まることが出来たのは、

この世界にあの子の存在があったからなのだと思います。

 

頭では分かっていても、どうにもならなかった気持ちを抱えた私を、

あの子はその存在で、この世界へと繋ぎ止めてくれていたのでしょう。

 

あの日のことは、春を迎える度に振り返ってきましたが、

生きることを選ぶことが出来た日としただけで、

これまでの私が、それ以上、深く考えることをしなかったのは、

それほどまでに、

私にとっての衝撃的な日だったからなのだと思います。

 

この春の手前で、ゆっくりと、それまでの21年間を振り返った時間は、

私にとって、

漸く、あの春の日の自分と向き合えた時間でもありました。

 

そうして私は、

この命は、

あの子が繋ぎ止めてくれた命でもあるのだということに漸く気が付いて、

この命を大切に生きなくちゃって、

改めて、この命の重さに気が付くことが出来たのでした。

 

ごめんなさい

もう二度と、あんなことは考えませんと、

あなたへの約束の手紙を書いたのは、

こうして、あなたへの手紙を綴るようになってから、幾番目かの手紙でした。

 

あの日のあなたへの約束が、此処に守り続けることが出来ているのも、

あの子がどんな道を選ぶのかを知り、

どんな大人になるのかを知ることが出来たのも、

あの子がその存在で、力強く、私を守ってくれていたからだったんだなって。

 

先日のあの子は、家に帰って来ると、私の顔を見て言いました。

元気そうで安心したよって。

 

ひとりになった私が、

ちゃんと食事を摂っているのか、

元気に日々を暮らしているのかと、

実は心配していたのだと、あの日のあの子はこんな話を聞かせてくれました。

 

あの子が巣立った後の私は、たくさん泣いたけれど、

笑ってしまうほどに食欲は旺盛で、

それまでの私が知らなかった気持ちを抱きしめながら、

ちゃんと前を向いて歩んで来ました。

 

我が子の巣立ちの時というのは、

本当に様々なことに気付かされるものです。

 

あの春の日と、漸く向き合うことが出来たから、

あの春の続きを見ることの出来る今が、

どんなに幸せなことであるのかを、改めて気が付いて。

 

あの春の日の記憶で足を止めた時間は、

その後の私がしっかりと歩めるようにと、

あの子がくれた時間でもあったのだと思います。

 

 

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