拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

キッチンでの思い出とあの子の成長

あなたへ

いやぁ、今日はちょっと違うよね

だって俺、今、これをやってるからさ

 

今日はさぁ、ちょっと疲れているんだよね

もう、いつもタイミングが悪くて笑っちゃうよね

 

これは、巣立ち前のあの子の言い訳めいた声です。

 

あの頃の私は、あの子が巣立つ前に、改めて料理を教えておこうと考えて、

一緒に料理をしようと何度も誘ってみましたが、

毎度、聞こえて来きたのは、言い訳めいたあの子の声。

 

漸く重い腰を上げたあの子と一緒に、

キッチンに立てたのは、一度だけのことでした。

 

あの日の私は、隣に並ぶあの子との身長差を改めて実感したり、

あの子の大きな手をまじまじと見つめたりしながら、

大きくなったなって、改めて、あの子の成長を感じながら、

まだ私よりも背が低く、

可愛らしい声をしていたあの子との時間を反芻していました。

 

あの子と2人で頻繁にキッチンに立っていたのは、

あの子が小学生までのことでした。

 

小さな手で、楽しそうに玉ねぎの皮を剥いてくれていたあの子は、

やがて、包丁を使いたがるようになって。

頼りない手つきから、しっかりとした手つきへと変わり、

いつの頃からか、料理関係の道に進みたいと、

そんな将来を夢見るようになりましたっけ。

 

多くのことを教えなくとも、

普段の私がしていることを真似るあの子の姿に、

子供は、親のすることを本当によく見ているものなのだなと、

驚かされた場面も多くありました。

 

あれから中学生になり、高校生になり、成長と共に、

部活や習い事、アルバイトと、

日々の生活に忙しくなっていったあの子とは、

一緒にキッチンへと立つ機会が自然となくなっていきました。

 

やがてあの子は、

新たな将来の夢へと向かって、真っ直ぐに歩んで行くようになり、

ひとりでキッチンに立つことが当たり前になっていた私にとって、

キッチンから、勉強に打ち込むあの子の姿を見守る時間も、

掛け替えのない時間となっていったのでした。

 

あの子の巣立ちが近付くにつれて、

もう少し、料理を教えておけば良かったかも知れないとも感じていましたが、

我が子の巣立ちの前というのは、

足りない何かを探してしまうものなのかも知れません。

 

巣立ち前のあの子と一緒にキッチンへ立てたのは、

一度だけではありましたが、

それまでのあの子が見せてくれた様々な成長を思い返し、

あの子なら、きっと大丈夫だと、

こんな気持ちで、あの子の巣立ちを見守りました。

 

さて、

先日は、あの子とビデオ通話をしましたが、

話をしながら、食事の支度を始めたあの子の姿を見て、驚いてしまいました。

もの凄く手際が良いのです。

 

その姿に感動しながら、

やはり私が感じていたのは、あの子の大きな成長でした。

 

全てを自分でやらなければならない場面にならなければ、

発揮されない力というものもあるのかも知れません。

 

一緒に料理をしようと何度誘ってみても、

言い訳めいた声ばかりが聞こえていた数ヶ月前のことを思い返せば、

なんだか笑ってしまいますが、

此処から巣立ったからこそ、

あの子の持つ本当の力が発揮されているのでしょう。

 

料理が苦ではないというあの子は、

外食はせずに、毎晩、自炊をしているのだそうですが、

最近では、お弁当を持って会社へ出勤するまでになったそうです。

 

あれですよ。

お弁当男子。

 

まさかあの子が、

お弁当男子なるものにまで成長するとは思ってもいませんでしたが、

一度は料理関係の将来を考えていたあの子です。

それもまた、あの子らしい成長の仕方とも言えるのかも知れませんね。

 

巣立った後の我が子というのは、本当に著しい成長を見せてくれるものです。

僅かな時間で急成長を見せてくれるあの子には、いつでも驚かされっ放しです。

 

先日は、あの子から簡単で美味しいおかずの作り方を教わりました。

まさか、あの子からそんなことまでもを教わる日がやって来るだなんてね。

 

次はどんな成長を見せてくれるのだろうかと、

私は今、遠くからその成長を見守る楽しさを感じています。

力強く前へと歩んで行くあの子の成長が、これからも楽しみで仕方がありません。

 

 

OFUSEで応援を送る