あなたへ
この世界に誕生し、初めて喜びの声を上げた記憶
生まれて初めて人の温もりを感じた記憶
美しい景色を見た記憶
美味しいものを食べた記憶
初めて人を好きになった記憶
欲しいものを手に入れて喜んだ記憶
新しいことに挑戦した記憶
夢を叶えた記憶
大切な仲間と笑い合った記憶
時々には、悔しい思いもあれば、辛い思いもあったでしょう。
でも、それら全ては、
あなたが更に素敵な景色を見るための出来事に、
過ぎなかったのかも知れません。
私と初めて出会った日には、どんな記憶が残っていますか。
この手の温もりを感じた記憶
2人で笑い合った記憶
初めて喧嘩をした記憶
一緒に作った思い出を数えた記憶
同じ未来を思い描いた記憶
小さなあの子を初めて抱いた記憶
毎日少しずつ成長するあの子を見守った記憶
家族3人で笑い合った記憶
そして、
あなたのことを名前で呼んだあの子の声も、きっと、その記憶の一部として、
あなたの真ん中へと収まっていることでしょう。
ねぇ、あなたはきっと、
この世界で集めたたくさんの記憶を持って、
そちら側へと旅立って行ったのでしょう。
この瞳に映ることのない今のあなたは、
記憶という形のないもので形取られているのかも知れません。
それは、心の存在を目視することが出来ないことと、
同じことなのかも知れませんね。
あなたの場所の一部として確立された、
白色のカバーが掛かった箱を見つめていました。
この箱に収まっているのは、
かつてはあなたという存在そのものでした。
私に愛を届けてくれたのも、
温かさを分け与えてくれたのも、
私に、ずっと先の未来を思い描かせてくれたのも、
この箱の中に収まる、かつてのあなたという存在そのものでした。
あなたはもう、この世界には存在しないけれど、
私の記憶には、
かつてのあなたという存在そのものが私にくれた全ての記憶が、
刻まれています。
それは、私という形全てを取り払ってしまえば、
私もまた、記憶で出来ているからなのかも知れません。
あなたと私。
今の私たちは、別々な世界に存在しているけれど、
持っているものや持っていないものを取り払ってしまえば、
私たちは、
全く同じ存在であると考えることも出来るのかも知れませんね。
あなたの場所の一部として確立された、
白色のカバーが掛かった箱を見つめながら、今日の私は、
記憶という形のないもので形取られたあなたの存在を思い描いていました。
今の私にとってのあなたは無色透明で、
どんなに周りを見渡してみても、
僅かな色さえも見当たらないけれど、
それは、肉体というフィルターを通した世界に過ぎないのかも知れません。
同じ景色を見ていても、感じ方が人それぞれ違うように、
誰一人として、同じ人間がこの世界に存在しないように、
あなただけの持つ感性を使って感じた全ての記憶を持って、
この世界を後にしたあなたはきっと、
更に素敵な存在となっていることでしょう。
それはきっと、光とも色とも表現出来るような、
素敵な存在であるのだと私は考えています。
人生とは、の後に続く言葉はたくさんありますが、
こうして考えてみれば、
人生とは、記憶を集め行く旅であるとも言えるのかも知れませんね。
私が人生についてを、
様々な視点から見つめるようになったのは、
いつの頃からだっただろう。
ほんの少しだけ視点を変えてみれば、
そこに見えるのは、いつでも様々に色を変えた景色です。
答えのない答えを様々な視点から、自分なりに見つけてみれば、
私の中にある世界が、
更に色鮮やかな景色へと変わるような気がするのです。
人は目的を持って、この世界へ生まれるのだと、
こんな話がありますが、
私はきっと、この人生の中で、
自分なりの様々な視点を見つけることも、
目的のひとつとしていたのかも知れませんね。
いつの日か、全ての形あるものを手放した時には、
私もまた、こうして大切に集めた視点も、
この記憶の一部として、
大切に、そちら側へと持って行くのでしょう。