拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

昨夜の恐怖の出来事

あなたへ

 

昨夜、午前0時を迎えようとする頃のことでした。

 

静まり返った我が家の中に、突然に聞こえたのは、

玄関のドアを開けようとする音でした。

 

え?

 

思わず小さな声をあげながらも、息を潜めれば、

次に我が家の中へと鳴り響いたのは、玄関のチャイム音。

 

ピンポン

 

・・・

 

ピンポンピンポンピンポン

 

一度で玄関を開けなかったからなのか、連打です。

 

こんなことをするのは、あの子だけ。

自分で鍵を開けるのは面倒だからと、私が家にいると分かっていれば、

あの子はよく、チャイムを連打して、

玄関の外にいることを知らせてくれました。

 

このやり方は、怪しい訪問者ではなく、俺です、という、

あの子なりの私への伝え方でした。

 

昨夜の私は、そのチャイムの鳴らし方から、

一瞬、あの子が帰って来たのだろうかとも考えましたが、そんなわけはありません。

社会人2年目に入ったあの子は、非常に多忙な日々を過ごしているのです。

 

あの子が此処で暮らしていた頃は、頻繁に聞こえたチャイムの連打音も、

あの子ではない誰かであることが明確であれば、私にとっては恐怖の音。

誰がチャイムを鳴らしているのか、玄関を開けて確かめる勇気もないままに、

迷わずあの子にメッセージを送ったのは、

あの子はまだ、絶対に起きている時間帯だと分かっていたからでした。

 

俺は今、仕事帰りだよ

どうしたの?

 

メッセージを送ると間も無くに届いたあの子からの返信は、

あの子が今日も、

此処から離れた場所で頑張っていることを知らせてくれました。

 

早速、今あった出来事をメッセージにしてあの子に送れば、

それ、完全に誰かの家と間違えているよ

なんて、こんな返信が届きました。

 

そうして、

俺も随分前に、他の人の家のドアに、

鍵を挿して開けようとしたことがあったからと、

こんな過去の失敗談が届いたのでした。

 

あの子からのメッセージを読みながら、私の中へと蘇ったのは、

此処へ越して来てからまだ間もなかった頃のことでした。

 

そう。思い返せば、まだ此処へ越して来て間もなかった頃に、

あの子は一度だけ、

全然違うお宅を自分の家と勘違いして、ドアを開けようとしてしまったのだと、

話してくれたことがあったのでした。

あれは、学校から帰ったあの子がしてしまった失敗談。

 

平日の午後、早い時間であったため、そのお宅は留守である可能性も高く、

恐らくは、怖い思いもさせることはなかっただろうと、

あの日の私たちの中で話が纏まったのでした。

 

あなたと共に暮らしていた頃は、一軒家であったため、

このような間違えなど存在しない環境でしたが、

同じデザインのドアが並ぶ集合住宅では、

あの頃の私たちには考えられないような間違えも起こることもあるようです。

 

昨夜の私は、いつの間にか、

あの子とのメッセージのやり取りに夢中になっていましたが、

チャイムの連打音は一度きりで、その後は、何もなかったことから、

やはりあの子の言う通り、

何処かのお宅と間違えてドアを開けようとしていたのでしょう。

 

いつかのあの子が、自分がしてしまった失敗についてを、

私に話して聞かせてくれたように、

きっと昨夜の誰かも、家に帰って、早速、

失敗談として、家族に話して聞かせたのかも知れませんね。

 

昨夜の私は、

不安な気持ちが少しも残らないようにと、

恐怖心をすっかり消し去ってくれたあの子のお陰で、

安心して眠りに就くことが出来ました。

 

一夜が明け、今日の私は、

昨夜の出来事を改めて振り返っていました。

 

ほんの少しだけ別な視点から見てみれば、

過去のあの子が、

自分の家と、他の方の家を間違えるという失敗をしてしまったのは、

そこからずっと先の未来にいる昨夜の私を、

安心させるための出来事であったと考えることも出来るのかも知れませんね。

 

こうして考えてみれば、

やはり、過去の出来事は、

いつでも思いもよらぬところに繋がっているものなのでしょう。

 

 

 

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