今年もまた夏が来たよ
空を見上げて呟いてみれば
私の中へと鮮明に蘇ったのは
初めて出会った夏にいた彼の笑顔だった
あの夏からの私に見える夏は
より一層
色鮮やかなものへと変わったんだ
私の手を包む大きな手の温もり
彼が開いてくれた小さな花火大会
まだ膨らみのないお腹に
そっと手を添えた彼が見せてくれた笑顔
笑うことを覚えた小さなあの子に
優しく微笑みかける彼の姿
あの子を呼ぶ彼のたくさんの声
水遊びに夢中になったあの子を見守る
彼の優しい横顔
出会ってからの私たちが一緒に歩んだ夏の季節を辿ってみれば
不意に聞こえたのは自分の声だった
嫌だ!
こっちに持って来ないで!
これは毎年恒例となった我が家の夏の景色に怯える私の声
あの子の物心がついた頃から
我が家にお迎えしていたのはクワガタだった
虫カゴの中を見つめて
目をキラキラさせるあの子の姿に
微笑ましく思いながらも
虫が大の苦手な私は毎年
こんな感じで
クワガタと最大限に距離を取ることに必死だったっけ
喧嘩をしないように
ご飯をふたつ置いてあげようね
何色がいいかな
赤と緑がいい
毎年の私は楽しそうな2人の姿を
影からそっと見守るばかりだったけれど
こうして改めて2人の姿を見つめてみれば
私にとっての苦手なものが
苦手なままで毎年の夏を過ごせていたのは
彼がいてくれたからだったのだと思う
ねぇ 楽しんでる?
影からそっと
幼いあの子の隣にいる彼に声を掛けてみれば
昆虫ゼリーを持ったままの彼が不意に顔を上げて
あまりにも楽しそうに笑っているから
思わずこちらまでもが笑ってしまった
夏の音に耳を澄ませながら
彼がいない夏を見つめてみる
あなたを見送ってから
10番目の夏にいるあの子も
相変わらずによく笑う良い子だよ
そう呟きながらも
浮かんだ笑みが崩れることがなかったのは
出会ってから幾番目かの夏にいた彼が
あまりにも無邪気で
子供みたいな笑顔だったからだ
友達と呼ぶにはまだ早かったけれど
あの頃の夏にいたあなたとあの子が
私には時々兄弟みたいに見えていたよ