拝啓、空の彼方のあなたへ

きっと、空に近い場所にいるあなたへ伝えたいこと。手紙、時々、コトバ。    <夫と死別したemiのブログ>

電子レンジ

あなたへ

 

お菓子も作れる電子レンジの方がいいよね?

 

今日の私は、部屋の片隅へ置いた、

処分予定となった電子レンジを見つめながら、

この電子レンジを買ったあの日のあなたの声を思い出していました。

 

あなたと2人で電気屋さんへと出掛けたのは、

新居への入居を間近に控えた頃のことでした。

 

冷蔵庫、掃除機、洗濯機。

生活必需品である電化製品を見て回りながら、

やがて電子レンジコーナーの番になると、あなたは言いましたね。

お菓子も作れる電子レンジの方がいいよねって。

 

温めることが主である電子レンジよりも、

オーブン機能のついた電子レンジの方が、使い方の幅が広がるからと、

お菓子作りが好きな私のために、あの日のあなたは、

オーブン機能のついた電子レンジを買うことを提案してくれましたっけ。

 

思えば私は、この電子レンジを使って、

本当にたくさんのお菓子作りを楽しみました。

 

ただいま

あっ!お菓子だ!

 

仕事から帰って来たあなたが、やがて、

作りたてのお菓子を見つければ、

いつでも嬉しそうな顔を見せてくれましたね。

 

少しずつ色々なことが出来るようになってきたあの子と一緒にクッキーを焼いた日は、

あの子作の電車の形のクッキーがとても綺麗に焼けました。

 

焼き上がったばかりのクッキーを見つめて、

嬉しそうにしていたあの子の笑顔は、今でも大切な宝物。

 

パパにも見せてあげるんだ

そう言って、電車の形のクッキーを大切に包んで、

あなたの帰りを待っていたあの子の姿は、とても可愛かった姿でした。

 

毎年の秋になると、栗をたくさん頂く機会が多かった我が家。

茹でただけの栗は、あまり好まなかったあなたとあの子だったけれど、

栗を使ったお菓子を作れば、喜んで食べてくれましたっけ。

 

お菓子を作った数の分だけ、

私の中には、あなたとあの子の笑顔が集まりました。

 

20年以上を我が家で活躍してくれたこの電子レンジは、

思えば随分と長持ちしてくれました。

 

先日の私が迷わずに選んだのは、

当時の私たちにとっては物足りないだろうと話していた、

温める機能が主である電子レンジです。

 

あなたを見送り、あの子が巣立ち、ひとりになってからの私は、

一度もお菓子を作ってはいません。

今後もきっと、お菓子を作る機会が訪れることはないのでしょう。

 

こんなふうに言えば、なんだか少しだけ、寂しさを感じてもしまいますが、

それは、今の私にとってのやりたいことや優先したいことが、

変わったからなのだと思うのです。

 

あの子が巣立ち、ひとりになったからこそ、

今度は、自分のやりたいように生きることをテーマにしている今の私は、

時間の使い方が変わり、様々な物事への優先順位が変わりました。

 

今の私が私であるのは、あの頃、大好きだったお菓子作りを、

もう存分に、楽しむことが出来たからなのかも知れません。

そして、私が集めたかった笑顔を全て、

集めることが出来たからとも言えるのでしょう。

 

いつかのあなたが作ってくれた白い棚の上に設置した新しい電子レンジは、

当初のものよりも随分とコンパクトに収まってくれています。

 

こんなことを言うのは、大袈裟かも知れないけれど、

きっとね、我が家の中に、

オーブン機能のついた電子レンジがある景色はもう、

二度と訪れることはないのだと思います。

 

きっと、あの日のあなたと一緒に選んだ電子レンジが最初で最後。

 

だから私は、この人生の中で一度きりの、オーブン機能がついた電子レンジを、

あなたと一緒に選べて、良かったなって思っています。

 

これから始まる私たちの新しい生活にワクワクとしながら、

手を繋いで、買い物へと出掛けたあの日のこと。

きっとずっと忘れないよ。

 

 

P.S

明日からお盆に入ります。

こちらでは、あなたをお迎えする準備は万端に整いました。

今年は何時頃にこちらに着く予定ですか。

今年のこちらも、とても暑い日が続いています。

例年通り、アイスクリームは冷凍庫へ入れておきますね。

あの子も私も、あなたが帰ってきてくれることをとても楽しみにしています。

気を付けて帰ってきてくださいね。

 

 

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