あなたへ
え?お母さんって、野口英世世代の人じゃないの?
もしかして、夏目漱石世代の人?
これは、今年のお盆休み中のあの子の言葉です。
明治、大正、昭和、平成、令和。
生まれた年号によって、世代分けをする表現はよく耳にしますが、
あの日のあの子がしたのは、
馴染み深い千円札の人物という視点からの世代分けでした。
相変わらずのあの子の発想力には、笑ってしまいましたが、
あの子がよく知る野口英世の千円札へと変わったのは、
あの子が幼かった頃であることを伝えると、あの子はとても驚いていました。
ねぇ、あなたは覚えていますか。
現在の旧デザインにあたるお札へと切り替わった頃は、
不思議な気持ちがするねと話し合いながら、
見慣れなかったデザインのお札を2人で眺めた日がありましたね。
あの頃の私は、大人になったあの子の姿など、
上手く思い描くことが出来ないままでいたけれど、
あれから月日を重ね、立派に大人になったあの子の笑顔を見つめてみて初めて、
大人になったあの子のために、
あの頃のデザインのお札をとっておいても良かったのかも知れないなと、
こんな視点を見つけました。
もしもあの頃の私たちにとって馴染みの深かったデザインのお札を、
未来のあの子のために取っておくということを思いついていたのなら、
今の私は、あの子の笑顔をひとつ多く集めることが出来ていたのでしょう。
集めることの出来なかったあの子の笑顔を思い描きながら、
それならと思い付いたのは、
今のあの子にとっての馴染みの深いお札を取っておこうというものでした。
今現在の私のお財布の中身は、
旧デザインとなったお札で殆どを締めていますが、
いつの間にか、新しいデザインのお札だけが、
お財布に入っていることが当たり前の景色へと変わっているのでしょう。
今のうちにと漸く、
旧デザインとなったお札を封筒へと仕舞ったのは、先日のことでした。
次にお札のデザインの変更の時がやって来た時に、
今現在、旧デザインとなったばかりのお札をあの子に渡したのなら、
どんな顔を見せてくれるのでしょうか。
どうやら、お札は20年に一度程のペースで、デザインが変更になるようです。
今後も、これまで通りのペースでお札のデザインが変更となるのであれば、
その頃のあの子は、40歳を過ぎたあの子です。
20年前の私が、
20年後の未来を上手く思い描くことが出来なかったように、
今の私もまた、20年後の未来を上手く思い描くことは出来ないけれど、
きっとその頃のあの子も相変わらずに、
今がいちばん可愛い、を更新し続けていることでしょう。
その頃のあの子が私に見せてくれる可愛さとは、
どんな可愛さなのでしょうか。
その日が来ることを楽しみに、
此処からずっと先の未来のあの子への贈り物を、
大切に保管しておこうと思います。
P.S
あの子に新しいデザインのお札を見せた後で、早速、使ってみたのは、
お盆期間中のことでした。
初めてのことというのは、
何でも緊張してしまうものなのかも知れません。
レジで新デザインのお札を渡した時には、何故だかとても緊張してしまいましたが、
ちゃんと支払うことが出来ましたよ
という、とても当たり前の報告も、あなたにしておこうと思います。