あなたへ
え?本当にこの道で合っているの?
ナビをセットしたにも関わらず、とてつもなく不安になって、
思わず路肩に停車して、行き先を確認してしまったのは、
今の私がご縁をいただく場所へと通い始めてから、
どれくらいが経ってからだっただろう。
今日の私は、あの日通った不思議な道を思い出していました。
今の私がご縁をいただいている場所は、あまり土地勘のない場所です。
最近では、漸く道を覚えて、私なりのルートも決まってきましたが、
これまでには、ナビアプリを利用しながら、様々なルートを通りました。
きっとその日の交通事情によって、案内してくれる道が異なるのでしょう。
お陰で、様々なルートを知り、
その中でも、私にとっての覚えやすい道を見つけることが出来ました。
自分なりのルートを決めることが出来た私はもう、
当初のように、様々な道を通ることはありませんが、
今でも印象に強く残っている道がひとつだけあります。
あれは、帰宅時に案内されたルートでした。
いつもであれば、真っ直ぐだと案内される筈の大通り。
あの日はたった一度だけ、左へ曲がるようにと案内されて。
ナビの声に従って道を辿って行けば、
とても自宅へ向かっているとは思えないような景色が見え始めたのです。
あの日の私が通ったのは、山々に囲まれていて、曲がりくねった道。
景色はとても綺麗だったけれど、信号もなければ、車の通りも少なくて、
帰宅ラッシュとは程遠い空気感に、
私は何処へ向かっているのだろうかと不安に感じてしまったのでした。
そうして思わず、車を停めて、ナビの行き先を確認して。
間違いなく、行き先が自宅であることに安堵すると、
相変わらずに続く見慣れない景色たちは、
やがて私を不思議な気持ちにさせました。
なんだか、あなたが選びそうな道だなって。
色々な道を知っていて、渋滞を避けるのが上手だったあなたが選ぶ道は、
いつでもマニアックな道でした。
方向音痴な私にはよく分からなかったけれど、
こうして思い返してみれば、あなたはきっと、少しだけ遠回りをするけれど、
信号が少ない上に、全く混まない道であるから、
予定よりも、早くに目的地へ到着するような、
そんな道を好んでいたように思います。
実はあなたが道案内をしてくれているのではないかと、
そんな気持ちさえしてしまったあの日の私が通った道は、
随分と長い間、上ったり下ったりとしながら、自然に囲まれた景色が続きましたが、
やがて真っ直ぐで、平坦な道へと変われば、思わず声が漏れ出てしまいました。
え?こんなところに出るの?って。
だって、気が付いた時には、
私は既に、自宅の直ぐ側にいたんだもの。
とても不思議な気持ちで家へと到着し、時計を確認してみれば、
いつもよりも早くに到着していて。
こうして思い返してみても、とても不思議な出来事でしたが、
もしもいつかのあなたが言っていたように、
電気とそちら側が繋がっているのだとするのなら、
こんなことが起こっても不思議ではないのかも知れません。
たった一度だけ案内されたあの道は、
実はあなたが案内してくれた道だったのだと、
そういうことにしておこうかなと思います。
だって、その方がなんだか面白いもの。
土地勘のない場所とのご縁から、通勤ルートを模索していたあの頃。
俺ならこの道を通るよって、
そんなあなたからのメッセージであったのかも知れませんね。
運転が得意ではない私には、
通勤ルートとして利用するには、ちょっとレベルの高い道ではありましたが、
お陰で、此処からそう遠くはない場所に、
あんなに素敵な景色があることを知ることが出来ました。
きっとあの日、道案内をしてくれたあなた。
素敵な景色をありがとう。