あなたへ
つい最近までは、夏と秋の間を感じていたはずなのに、
ここ最近では、肌寒さを感じる日が増えてきました。
半袖で過ごすには、なんだか寒過ぎて、
思わず長袖のシャツを引っ張り出してきて。
久し振りに長袖のシャツに腕を通せば、
その心地良さに、夏の終わりを感じました。
もう、秋なんだね
袖を通したばかりの長袖のシャツを見つめながら、不意に小さく呟けば、
あなたを見送り初めて迎えた秋の季節が、自然と私の中へと蘇ったのは、
今年の夏で、あなたを見送ってから、
10年というある種の区切りを迎えたからなのかも知れません。
夏の中にも少しずつ、秋の気配を感じ始めれば、
やがて、日に日に肌寒さを感じるようになって。
あなたがいないままに、
次の季節を迎えることを受け入れることが出来ずにいた私は、
何度、夏の季節に留まったままのあなたに手を伸ばしただろう。
ねぇ、あなた
こっちだよ
もう、秋が来たんだよ
一緒に行こうよって。
どんなに手を伸ばしても、あなたがこの手を取ってはくれないのなら、
私は、あなたがいた季節の中にいたい。
あなたがいる夏を抱き締めたまま、後ろを向いて座り込んだ筈だったのに、
この世界に流れる時間は、強引に私を次の季節へと連れて行き、
あなたがいた夏は、静かに私の腕の中から擦り抜けて行ったのでした。
秋は物悲しい
秋という季節に対して、こんな表現があるけれど、
秋を物悲しいと一番初めに表現した人もまた、
夏に置いて行きたくない大切なものがあったのかも知れませんね。
あなたを見送ってから、
2番目の秋を迎え、
3番目の秋を迎え、
4番目の秋を迎え、
5番目の秋を迎え、
少しずつ、少しずつ、
前を向いて歩めるようになった私は、
あなたと過ごした様々な秋を大切に拾い集めながら、
やがてこの両手には、たくさんの思い出のカケラたちが集まって行きました。
日々成長し続けるあの子の笑顔は、
私の秋に、毎年違う色を染め続けてくれました。
あなたにも見せてあげたい素敵なものをたくさん集めよう。
いつしか見つけることの出来たこの人生のテーマは、
やがて、秋には秋だけの素敵なところがたくさんあることを私に気付かせました。
昔から、秋が苦手だった私の筈なのに、視点を変えてみれば、
秋が見せてくれる素敵なものは、どんどん見つかっていきました。
あなたがいないままに迎えた11番目の秋を見つめながら、
今の私は、
あの頃の私には想像すら出来なかった未来を歩んでいるのだと、
改めて感じています。
こうして今の私が此処にいるのは、
夏の暑さが苦手で、秋の涼しさを感じた頃になると、
元気を取り戻していたあなたのお陰だったのかも知れませんね。
だってあなたは、秋が好きだったもの。
今夜の私は、秋の音に耳を澄ませながら、
いつかの秋にいたあなたの笑顔を思い出していました。
今頃のあなたも、きっと何処かで笑っているのかも知れませんね。
半袖でいるには肌寒くて、長袖へと着替え、
その心地良さに笑っていたいつかの秋のように。