あなたへ
昨日の私は、あなたへの手紙を書きながら、
いつの日か、そちら側のあなたから、
電話が掛かって来る日のことを思い描いていました。
もしも本当に、そんな奇跡のような日がやって来るとしたのなら、
あなたはどんな声を聞かせてくれるのだろう。
私は何を伝えるのかなって。
そんな私の中へと蘇ったのは、
おじいちゃんが亡くなった時のことでした。
今日は、おばあちゃんが聞かせてくれた不思議な話を、
あなたにも話してみたいと思います。
おじいちゃんが突然に亡くなったのは、あなたと出会う前。
そう。丁度、
大人になることは、きっとつまらないことだと、
そんなふうに、どこか大人になることを拒んだまま、
朝が来るまで笑っていた、あの頃の時期のことでした。
おじいちゃんのその姿とのお別れの日が近付いて、
納棺の日を迎えると、おばあちゃんが棺に入れたのは、
たくさんのテレフォンカードでした。
天国に着いたら電話をしてね
きっと天国は遠いから、
テレフォンカードをたくさん入れておくからね
安らかに眠るおじいちゃんを見つめながら、
こんなふうに声を掛けていたこと、今でもよく覚えています。
誰かからの電話が掛かってくるには、
あまりにも遅い時間に鳴った一本の電話に驚きながらも、
受話器を取ると、直ぐに電話が切れてしまったのだと、
おばあちゃんがこんな話を聞かせてくれたのは、
無事に葬儀を終えて、暫くが経った頃のことでした。
きっとね、あれは、じいちゃんからの電話だったんだよ
天国はきっと遠いからね
話す前に電話が切れてしまったんだね
でもきっと、無事に天国に着いたんだと思うよ
あの日のおばあちゃんは、こんなふうに話を締め括ったのでした。
あの頃の私は、とても不思議な気持ちで、
おばあちゃんの話に耳を傾けていましたが、
おばあちゃんがそう感じたのなら、きっとそれは、本物だったのでしょう。
説明のつかない不思議な出来事ってきっと、
何の証拠もなくたって、
伝えたい相手には、ちゃんと伝わるように出来ているのよ。
おじいちゃんが亡くなっても、
私が知るおばあちゃんは、何も変わることなく、
いつでも笑顔のおばあちゃんだったけれど、
本当は、ひとりで泣いていた日もあったのかも知れません。
どうすることも出来ない胸の痛みと向き合いながら、
寂しさを感じた日もあったでしょう。
それでもきっと、あの一本の電話は、
おじいちゃんがこの世界から居なくなってしまった先を歩んだおばあちゃんの、
大きな支えとなり、
いつでも、おばあちゃんの人生に、
そっと寄り添い続けたものであったのだと思います。
あの時は、テレフォンカードが足りなかったんだよ
あら、もっとたくさん入れておけば良かったですね
きっと、今頃の2人は、
そちら側で、あの頃のことを振り返りながら、
こんな話をして、笑っているのかも知れませんね。