あなたへ
長さを決めたら、こんなふうにハサミを動かして
この角度で、こんなふうに前髪を持てば、
絶対に失敗しないからね
私に前髪の切り方を教えてくれたのは、
長年お世話になっている美容師さんです。
美容室で髪を切って貰ったのは、夏と秋の間の頃のこと。
あれから、少しずつ秋が深まり、着る服が変わり、
気が付けば前髪も、あれから随分と伸びてしまいました。
あの日の美容師さんの言葉を思い出しながら、
鋏を持ったのは、昨夜のことでした。
これまでとは違う鋏の使い方。
これまでとは違う前髪の持ち方。
私にとっての初めてばかりが詰まったやり方に、
なんだか緊張し過ぎて、あまり思い切ることが出来ずに、
僅かに短くなっただけではありましたが、確かに、
あの日の美容師さんの言葉の通り、失敗せずに切ることが出来ました。
思いのままに仕上げるには、もう少し練習が必要ではありますが、
初めてのやり方であるにも関わらず、
思っていたよりも上手に切れた前髪に、
なんだか満足しながら、昨夜の私は眠りに就くことが出来ました。
あなたを見送り、自分で前髪を切るようになった私は、
やがて、あなたみたいに上手に前髪を切ることが出来るようになりました。
これが前髪を切る私の完成形なのだとずっと思っていたけれど、
まさか、プロの美容師さんから、
前髪の切り方を教えていただける日が来るだなんてね。
私はまた此処から、
前髪を切る腕を上げて行けるのかも知れません。
数ヶ月先にはどんな私がいるのだろう。
なんだかとても楽しみです。