あなたへ
あと数日が経ったら、あの子は帰っちゃうんだな
朝、目が覚めて、こんな気持ちを見つけたのは、
新しい年が明けたばかりの朝のことでした。
今、此処に流れるのは、あの子との非日常となった時間。
かつては私たちにとっての日常だったこの時間は、
相変わらずに心地が良くて、
つい、日常であるかのように錯覚しながら過ごしていたけれど、
不意にこの時間に終わりがあることを思い出してしまったのです。
そうして、胸の奥がギュッと掴まれれば、
あの子を駅まで送り届けた後の、
此処に流れる時間に感じるあの気持ちまでもが鮮明に蘇って。
昨年の夏からの私は、とても早い流れの中を歩みました。
その分、今、此処に流れる時間だけは、ゆっくりと流れてくれないかな。
とか、
出来れば今だけ、1日が50時間くらいにならないかしら。
なんて、つい、こんなことを考えてもしまいましたが、
この世界に流れる時間は、1日24時間。
そして、1秒は2秒にはなりません。
時間という概念のあるこの世界では、どんなに頑張っても、
時間を戻すことが出来なければ、同じ時間に止まることも出来ないからこそ、
今、此処に流れる時間を大切に過ごして行こうって、
こんな気持ちで締め括った筈なのに、夜になれば、
また1日が終わってしまうんだなって、
胸の奥に、こんな気持ちを見つけてしまうのです。
確実に、私の胸の中へと集まり続けるあの子の笑顔を大切に数えてみれば、
今の私が、どれだけ愛おしい時間の中を歩むことが出来ているのかを実感して。
今日も幸せだったね
漏れ出そうな本音の代わりに、こんな言葉を呟いてみても、
見つけてしまった胸の奥の痛みは、小さく疼きながら、
私に本音を訴え続けてくるのです。
ねぇ、あなた。
私ね、巣立った我が子の帰省を経験すればする程に、
少しずつ、慣れるものなのだと思っていたけれど、きっと違うのよ。
帰省した我が子を駅まで送り届けた数の分だけ、
その後の此処に流れる静寂の数を知り、
我が子と過ごした日常が、
どれだけ価値のある時間であったのかを、改めて考えさせられるものなの。
本当は、あなたと2人で感じてみたかったこんな気持ちを大切に感じながら、
今日も大切に1日を過ごしました。
今回のあの子の帰省も、残り僅かとなりました。
胸の奥に疼く痛みを存分に感じ切ったのなら、
今度は、駅であの子が車から降りる瞬間まで、
あの子と2人で存分に笑い合うからね。