あなたへ
俺ね、守られているから、絶対に大丈夫なんだよ
不意に蘇ったのは、仲の良かった友人の言葉でした。
いつもは冗談ばかりを言う彼が、一度だけ、
その内側にある繊細で柔らかな部分を見せてくれたのは、
何故だったのだろう。
あの日の彼が私に聞かせてくれたのは、彼の家族の話でした。
俺さ、歳の離れた弟がいたんだよね
いつも俺の後ろをついて来てさ
凄く可愛かったんだ
でもさ、小さい時に亡くなっちゃったんだよね
彼のこんな声に、何の言葉も返せないままに、
静かに相槌を打てば、彼の言葉は更に続きました。
弟はね、亡くなったけれど、いつも俺の側にいてくれて、
俺を守ってくれているんだよね
だから、俺は絶対に大丈夫なんだよって。
あの頃の私は、
現実的に目に見えるものだけを信じて歩んでいた頃の私でしたが、
彼の言葉に否定的な気持ちを持つことはないままに、
私とは違う感覚の中で生きる彼の言葉をただ、静かに見つめたのでした。
特に何かが見えるわけではないと話してくれた彼は、
目には見えない何かを感じ取っていたのかも知れません。
それは、今こうして思い返してみれば、
瞳には映らなくなってしまった大切な人を、
何処かに探し続けていたからこそ、見つけることの出来た何かだったのでしょう。
今の私がそうであるように、人は大切な誰かを亡くした時に、
この世界がそれまでとは、少しずつ、違って見えてくるものなのかも知れません。
それまで知らなかった痛みや悲しみ、苦しさを知り、
それを咀嚼し続けた先には、
また別なものが見つかるものなのかも知れませんね。
過去の出会いの中には、時に、
ずっと先の未来の自分に必要な視点を持った人との出会いがあるのかも知れないと、
こんなふうに考えるようになったのは、
いつの頃のことだっただろう。
あれからずっと先の未来の私は、
出来れば知りたくはなかった痛みを知ることになってしまったけれど、
彼は、行き場を失くしたものを全部抱えたままで生きる術を、
私に教えるために出会ってくれた存在だったのかも知れません。
胸の奥がギュッと締め付けられて、
どうしようもない痛みを感じ切ったのなら、
今度は精一杯、生きればいい。
守られているから、絶対に大丈夫なんだよって。
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