あなたへ
あっ!俺、キミのこと見たことがあるよ
前にさ、俺の車の隣を走っていたことがあったんだよ
これは、私たちが出会ってから、
どのくらいが経ってからのあなたの声だっただろう。
不意に蘇ったあなたの声を反芻しながら、
あの頃の私たちに流れていた時間を思い出していました。
あれは、私の車にあなたを初めて乗せた日のことでした。
車内に置いてあったサングラスを指差して、
ねぇ、これ掛けてみてよって、こんなあなたの声に従って、
素直にサングラスを掛ければ、
あなたは何かを思い出したかのように言ったのよ。
俺、キミのこと見たことがあるよって。
それは、私たちが出会う前のことだったとあなたは言いました。
二車線道路で、あなたが走る隣の車線を走っていた私を見た日があったのだと、
こんな話してくれましたね。
あの時の子だったんだね
私の記憶には残ってはいない記憶を辿るあなたの声を聞きながら、
なんだかとても不思議な気持ちがしたこと、今でもよく覚えています。
あれは、私たちが出会ってから、
幾番目かの同じ時間を重ねた日のことでした。
ねぇ、あなた。
私たちの出会いには、
どうしてこんなにも不思議な出来事が起こっていたのだろう。
あなたと出会う前に、真っ白な世界の中で男性と一緒にいる夢を見た私と、
私と出会う前に、隣の車線を走っていた私を見たあなた。
あの頃の私にとっては、点でしかなかったものが、
こうして今、線で結ばれてみれば、
やはり、私たちは、運命的に結ばれていた相手なのだと、
こんな証拠をまたひとつ、見つけたような気がしてしまうのです。
あなたを見送ってからの私は、私なりの解釈で、
私たちが運命的に結ばれていた相手である証拠を様々に集めて来ました。
証拠を見つける度に、ほらね?ほらね?って何度でも、
こうして手紙へと綴りながら、あなたにも伝えてみたくなってしまうのは、
私たちは運命の相手だよねって、いつかの私のこんな言葉に、
あの頃のあなたが、
ただ笑っていただけだったからなのかも知れません。
でも、見方を変えてみれば、
あの頃のあなたが私の言葉に頷いてはくれなかったから、
こんなにもたくさんの証拠を集めることが出来たと言うことも出来るのでしょう。
あなたと過ごした16年間の中には、きっとたくさんの課題があるのだと、
いつかの私は、こんなことを考えていたけれど、
こんなふうに、運命の相手である証拠をひとつひとつ見つけることも、
私への課題のひとつだったのかも知れません。
ひとつひとつの点を線で結ぶ方法が分からなかった私は、
様々な視点からの点を集めながら、
やがて少しずつ時間を掛けて、点を線で結べるようになりました。
今はまだ、短い線ばかりだけれど、いつかそれらは、
一本の線へと繋がって行くのでしょう。
そこに見つけることが出来るのは、
運命の糸で描かれたひとつの作品とも呼べる形なのかも知れません。
もしもね、あの日のあなたが、
私の言葉に頷いてくれなかった理由があるとするのなら、
あの夏からずっと先へと歩んだ私に、
ひとつひとつの点でしかなかったものを結ばせて、
一本の線で描かれるものを見つけさせるためだったのかも知れないと、
今の私には、そんな理由があったような気がしてしまうのです。
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