あなたへ
ずっと好まなかった筈のグミを突然に好きになったのは、
あなたとの仲睦まじい、の年齢差だった私でした。
思えばあれからの私は、様々な味のグミを買って来ては、
あなたへお供えしてきました。
オレンジ味のグミ
桃味のグミ
葡萄味のグミ
ヨーグルト味のグミ
それから、
色々な味が楽しめるグミ
極端だね
なんて、あなたはきっと笑っているんだろうな。
時々には、聞こえないあなたの声を思い描きながらも、
あれからの私は、思えば随分と頻繁に、グミを購入するようになりました。
だってさ、なんだか嬉しいんだもの。
好きな食べ物が増えることってきっと、幸せが増えることなのよ。
きっとね、
あなたが好きだったお菓子を好きになれた私は、
尚更に幸せを感じることが出来ているのよ。
買い物へと出掛ければ、グミがたくさん並んだ売り場で足を止めるのも、
私の中での日常の一部へと変わりましたが、
そんな私の目に不意に留まったのは、メロン味のグミでした。
何気なくそれをひとつ手に取ってみれば、私の中へと蘇ったのは、
あの、レシート用紙に書かれていた文字でした。
一般病棟へ移れた頃のあなたに買った小銭入れを、
何の躊躇もなく開けることが出来たのは、いつの頃のことだっただろう。
そこに入っていたレシート用紙には、
メロン味のグミの購入履歴が残っていたのでした。
ねぇ、あなたは覚えていますか。
メロン味のグミは、
あなたがこの世界で最後に食べたグミの味だったね。
今日はメロン味のグミを買うべきなのだと、そんな気がして、
私は迷わずに、メロン味のグミを購入することに決めました。
帰宅早々に、あなたの場所へメロン味のグミをお供えすると、
あの頃のことを振り返っていました。
あの日のあなたは、
どんな気持ちでメロン味のグミを食べていたのだろう。
出来れば幸せな気持ちで、その時間を楽しんでいてくれたらと、
こんな気持ちと共に、不意に溢れ出したのは、
これまでの私が見つけたことのなかった気持ちでした。
もしも時間を戻すことが出来たとしたのなら、
あの日1日は、仕事を休んで、あなたの側にいたかったなって。
あの日の私は、仕事を終えてから、
あの子を連れて、あなたに逢いに行ったけれど、
私には、それだけじゃ足りなかったのだと思いました。
だってさ、
もしもあの日1日を、
病院の中であなたと一緒に過ごすことが出来たのなら、
今の私が知らないあなたの笑顔を、声を、集めることが出来たもの。
あの頃のあなたが知らない私たちの笑顔を、
その胸の中に、しまうことが出来たもの。
あの日にいたあなたは、
その手に触れた私の手を握り返してくれたあなただったもの。
もしも、こんな私の声があなたのところまで届いたのなら、
あなたはきっと言うのでしょう。
もう十分だよって。
相変わらずに、足りなかった何かを探しては、
もう少しだけを望んでしまうのは、私だけであることを分かっていながらも、
それでも、私は何度でも、もう少しを探しては、
そこに見ることの出来なかった家族3人の景色を思い描いてしまうのです。
どんなにあなたと過ごす時間を増やすことが出来たとしても、
十分であることには、きっとならないことを分かっていながらも。
突然にグミを好きになった私は、
様々な味のグミを購入するようになりましたが、
私はこれまで無意識に、
メロン味のグミを避けていたのかも知れません。
あなたと話が出来た最後の日の記憶を思い出さないように。
そうして不意に、メロン味のグミが気になって、手に取ることが出来たのは、
これまでずっと、見ないようにして来た気持ちと向き合える私へと、
成長することが出来たからだったのかも知れませんね。
こうして不意に蘇る記憶と向き合いながら、
私は幾つくらいのそこに感じる痛みと向き合って来ただろう。
きっとこれから先も何度でも、その時がやって来れば、
私はそこに感じる痛みと向き合うのだろうけれど、
またその時がやって来たのなら、ちゃんと向き合って、
そこに感じる気持ちを咀嚼して、
自分なりの形へと整えて、胸の中へ大切に収めながら、
この人生を歩んで行きたいと思っています。
ちゃんと向き合い続けた先には必ず、
私だけの形がそこに見える筈だから。
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