あなたへ
あの道を通る時。
そう。いつかの私たちが、奇跡的とも呼べる確率の中で、
偶然、外で出会ったあの道を通る時に、
右折する車が止まっているのを見つけるとね、
もしかしたら、あの頃のあなたが、
あの時みたいに笑って、こちらを見ているかも知れないと、
そんな気がして、私はつい運転席に座る方の顔を確認してしまうのです。
あなたが乗っていた車とは、全然違う車なのにね。
なんだか笑ってしまうよね。
あなたの隣で笑っていた頃の私は、
同じ場所に違う車を見つけても、
いつかの奇跡みたいな瞬間を思い出しながらも、
真っ直ぐに前を見つめていた筈だったのにさ。
あの道で、右折車が止まっているのが見えて、
いつも通りとも呼べる感覚で、
運転手の方の顔を確認してしまったのは、先日のことでした。
私の期待はいつでも裏切られて、毎度、小さな落胆を覚えるというのに、
それでも私が何度でも、同じ期待をしてしまうのは、
あの辺りの景色のせいなのかも知れません。
あの夏からのこの辺りの景色は、随分と変わったけれど、
私たちがすれ違いながら笑い合ったあの辺りは、あの頃のままで。
あの頃と同じ景色の中で蘇る記憶というのは、
不意に、戻りたい過去へと戻ることが出来たような、
期待した何かを見つけられるような、
そんな気がしてしまうものなのかも知れません。
だから私は、あの頃とよく似たシチュエーションを見つければ、何度でも、
そこにあなたがいるのかも知れないと、僅かに期待をしてしまうのかも知れません。
私が望んだ笑顔を見つけることが出来ないままに、私はやがて、
ハンドルを握る自分の手に注意を向けて、
あの頃とは違う車に乗っていることを思い出してみれば、
私だけが、あの夏の続きを知っていることに気が付いて。
当たり前など、この世界の何処にもないように、
きっといつかは、
あの辺りの景色も少しずつ、変わり行く日がやって来るのだと思います。
その時がやって来るまで私はきっと何度でも、僅かな期待を込めながら、
胸の中に蘇ったあなたの笑顔を大切に、大切に集めて行くのでしょう。
あの、奇跡的な瞬間に笑っていたあなたが、
幻になってしまわぬように。
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