あなたへ
え?まただよ
降り出した雨を見つめながら、それが、
また、であることを振り返ったのは先日の私でした。
雨が降るだなんて、そんな予報はなかった筈なのに、
外に出た途端に、または、車に乗り込んだ瞬間に、
或いは、何処かへ到着したと同時に雨が降り出す。
こんな不思議なタイミングの雨を見つめるようになったのは、
いつからだっただろう。
辿った記憶が正しいとするのなら、恐らくは、
あの、長く勤めた会社を去ってからだったような気がします。
あの会社を去り、私に見える景色は大きく変わり行きましたが、
こうして雨を見つめてみると、
あれからの私を纏う何かが変わったと言うことも出来るのかも知れません。
あの会社を去ってからの私は、
幾つもの不思議な雨を見つめるようになりましたが、
洗濯機を見に電気屋さんへと出掛けたあの日の雨は、
その中でも、最も強いインパクトが残っています。
そう。あの日は、確かに晴れていたのです。
それなのに、私が向かう先へと近付けば近付く程に、
真っ暗な空へと変わって行ったのでした。
今日は、晴れの予報だった筈なのに
小さく呟きながら、信号の待ち時間に見つめた空の色は、
まるで映画のワンシーンに登場しそうな、出来すぎた空の色をしていました。
やがて電気屋さんへと到着すると、そのタイミングを待っていたかのように、
突然に酷い大雨が降って来たかと思えば、雷までもが鳴り響いたのでした。
あの日の私が行った先は、屋根がついた駐車場であったため、
雨が止むのを待つこともなく店内へと入ることが出来ましたが、
突然の豪雨と雷を見つめながら、
それがあなたに関係したものであると確信することが出来たのは、
いつかの私があの子を道連れにしてパソコンを買いに出掛けた、
あの電気屋さんだったからなのかも知れません。
無事に店内へ入ることが出来たにも関わらず、
今回は、此処では洗濯機を買うことはないのだろうと、
なんとなくそんな気がしたのは、やはり、
随分と派手な空模様と関係があったのでしょう。
店内を見て回ったものの、ピンと来る洗濯機を見つけられずに、
短時間でお店を出ることになりましたが、外へと出てみれば、
先程の空が嘘だったかのように、澄んだ青空へと戻っていました。
どうしても今日中に、洗濯機を決めたい。
こんな気持ちを抱えたあの日の私は、
思い付いた2軒目のお店へと向かうことに決めましたが、何故でしょうか。
車を走らせれば走らせる程に、
先程までの豪雨の痕跡が、何処にも見当たらなくなって行ったのです。
そう。なんだか、
あの電気屋さんの辺りにだけ雨が降っていたのではないかと、
そんなふうにも思えるくらいに。
あの日の私が、
これだと思う洗濯機を見つけることが出来たのは、2軒目のお店でのことでした。
あの日の目標であった、
今日中に洗濯機を決めることを達成することが出来た私は、
スッキリと晴れ渡った空の下、満足しながら、家へと帰ることが出来たのでした。
あの日は、家電をひとりで買いに行くという、
私にとっての初めての日でもありましたが、
実は私は、あなたに守られながら、
ひとりで家電を買うという初めてを経験していたのかも知れません。
そう。例えば、あの、酷い豪雨と雷は、
今日はこのお店ではなく、別なお店へ行った方が、良いものが見つかるよって、
こんなあなたからのメッセージだったりしてね。
もしもあの空模様がなければ、
早く洗濯機を決めてしまいたかったあの日の私は、少し無理矢理にでも、
あの電気屋さんで、洗濯機を決めていたのかも知れません。
これだと思える洗濯機と出会うことが出来たのは、
あの豪雨と雷のお陰だと言うことが出来るのでしょう。
雨を見つめながら、それが、
また、であると感じた先日の雨も、とても不思議な雨でした。
あの日も、天気予報は晴れだったのです。
日差しが暖かくて、気持ちの良い空が広がったあの日の私は、
公園へと出掛ける筈でした。
窓の外を見れば、青空にとても可愛らしい雲が浮かんでいて。
そんな日であった筈なのに、いつの間にか、空は雲で覆われていて、
私が外へと出た途端に、雨が降り出して。
え?まただよ
思わず、小さく呟きながらも、天気予報を確認すれば、
30分程で雨が止むことを知り、
それなら少しだけ図書館へ出掛けて、それから公園へ出掛けようって、
そんなふうに気持ちを切り替えて、車へと乗り込んだのでした。
図書館で、暫し静かな時間を過ごして、やがて外へと出てみれば、青空が見えて。
今度こそ、公園へ出掛けようと意気込みながら車へと乗り込んだ筈だったのに、
途端に雨が降り出したのです。
もう!何でなの?って、思わず小さく呟きながらも、
私には、それが必然的な何かであるように感じることが出来たのは、
幾つもの不思議な雨を見つめるようになったからだったのかも知れません。
今日は、公園へは行くなってこと?
それなら、今日は、公園へ行くのは辞めようかな
小さく呟ければ、雨が止んだあのタイミングもなんだかよく出来すぎた展開で。
公園へ出掛けようとすれば雨が降る。
あの日の雨は、そんな不思議な雨でしたが、
きっと、公園へは行ってはいけない何かが、あったのではないかと、
そんな気がしています。
私は、幾つくらいの不思議な雨を見つめてきただろう。
そう。あの子の巣立ちの日の雨も、
私たちにとっての忘れられない雨でした。
今のあなたと雨は、きっと何か深い関係があるのだと、
こんな視点を持つようになったのは、思えばあの子の言葉がきっかけでした。
俺は雨男なのだと、こんな不機嫌なあの子の声が聞こえたのは、
いつの頃のことだっただろう。
あの日のあの子の声がなければ、
繋ぎ合わせることのなかった視点であったことに気が付いてみれば、
これもまた、私にとっての必要な情報が、
密かに、随分と先にやって来ていたことにもなるのだと気が付いて。
今日の私は改めて、不思議な雨の景色たちを振り返りましたが、
四十九日の法要を迎えたあの日、あなたはきっと龍になったのだと、
私はずっとそんなふうに考えていたけれど、
本当は、逆だったのかも知れないなって、
ふと、こんな視点を見つけました。
雨が降り出すタイミングを見間違えることのなかったあなたには、
きっと何か不思議な力があるのだと、
間も無く雨が降ることを教えてくれるあなたの隣で、
そんなふうに考えていましたが、
それは、あなたが元々持つ力のようなものが関係していたのかも知れません。
実はあなたは、元々、龍だったりしてね
何気なく小さく呟いてみれば、
私はとても偉大なお方と、この人生を共にしていたのではないかと、
今更ながら、恐れ慄いてもしまいましたが、
起こる物事が全て必然だと言うのなら、
龍という文字を使った戒名をいただいたこともまた、
実は必然だったのかも知れませんね。
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